生涯学習note2020.04/29

 8回に渡ってお届けしてまいりました「誓い空しく・2020年エディション」の解説ですが、結局のところ、京浜兄弟社という音楽集団についての説明に多くを費やす形になりました。年表や証言などを交えて、その解析に努めてきましたが、自分でも説明しきれたとは思っていません。
 ひとつには、京浜兄弟社という音楽的な潮流が、バンドでもユニットでもサークルでもなく、とても流動的なオーガナイズによって成立していた、ひとつの運動体であったということに由来すると思います。いうなれば「理念」であり「思想」ですね。でありながら、そこに共有するマニフェストやらコンセプト、指針、テーマなるものが不在だった、さらに集団におけるメンバーの線引きが存在しなかった、という点が大きいのだと思います。いうなれば、誰もが「君も京浜兄弟社のメンバーだ」もしくは「私は京浜兄弟社のメンバーではない」と言えたのです。感覚を拠り所とした掘り下げる手つき、及び、作品に結実させる技術の共有のみがそこにあった。そして、目指すべき完成形、到達点が共有できていたという不思議さがあります。
「うまくいったはずの、架空の音楽史」、実際の音楽史が辿った悲惨さに対して、そのようなファンタジーを夢想して共有する。そんな姿勢があったのかもしれません。もちろん音楽史は悲惨さのみで成り立っているわけではありません。しかし音楽にまつわる物語を知りすぎてしまった我々は、ある種の諦念を持って、きっとうまくいかないはず、という事を分かっていたのかもしれません。「誓い空しく」というタイトルを、何度も口にして反芻する中で、そんな思いが想起されます。
 しかしながら、20世紀の一時期に、日本という辺境の地において、とても才能のある人たちと、このような形で制作や実演のオーガナイズを続けられてきたことは、自分のその後の活動を大きく支えており、「うまくいかないはず」の轍を巧妙に避ける術も巧みになってきました。
 とりあえず本稿を一区切りとして、「誓い空しく」というアルバムを核とした、京浜兄弟社にまつわる解析は一段落させたいと思います。後から発見された資料や図版は、その都度、過去noteの記事に付け加えていき、資料として充実させていきます。
 一連の記事から興味を持たれた方は、是非とも2015年に発売された10枚組ボックスセット「21世紀の京浜兄弟者」を入手していただき、ここでは再録できなかった記事の数々を参照していただきたいと思います。書籍に比する108ページのブックレットが付けられています。

 本項では最後に、この「21世紀の京浜兄弟者」に関する資料をご紹介したいと思います。
 ボックスセット発売時のティザー(予告映像)です。「誓い空しく」収録の15曲のダイジェストを聞くことができます。


収録アーティストと内容紹介

ART CORE FUNK/相川博昭/ATTIC/荒木尚美/石沢ミチキ/磯部智子/今井弘文/今堀恒雄+FRED FRITH /EXPO/ORGANIZATION/岡田裕二/岡村みどり/加藤賢崇/ガボタ昌英/菊地成孔/岸野雄一/KING & COUNTRY/クマさんチーム/倉地久美夫とアジャ・クレヨンズ/クララ・サーカス/ゲイリー芦屋/ゲイリー&ケーシー/ケラリーノサンドロビッチ&どくろ団/幸喜俊/幸喜睦子/小嶋智子/後藤浩明/コンスタンスタワーズ/近藤研二/佐伯健三&どくろ団/坂本光三郎/坂本勝/THE SON/三代目京浜兄子/SYZYGYS/清水俊行/冷水ひとみ/シュールデジール/SHORT CRAYON/SPACE PONCH/外山明/ソノラマ/高井康生/高橋久美子/ZYPRESSEN/TIPOGRAPHICA/東京タワーズ/ドカベン/常盤響/どくろ団/ドミニクス/中ザワヒデキ/中嶋勇二/永田一直/西岡由美子/西田ひろみ/パーク アンド ボート/ハイポジ/ハイヨ/蓮実重臣/林茂助/BEING BEAUTEOUS/Fib/伏黒信治/藤森健太郎/PRIDE/松信重光/松前公高/耳から回虫/三宅剛正/宮崎貴士/もすけさん/もりばやしみほ/モンシロチョーズ/山口優/山口由起子/ヤングホルモンズ/吉川まさみ/吉田誠/ラエモンズ/ラッカスビーンズ

 1980年代から、ナイロン100%、CSV渋谷、ALTOKI STUDIOなど東京を舞台に、未来の音楽系を予見するような、高度な音楽性とポップな実験性が同居した創作/批評活動を行い、その後大いに活躍するミュージシャン、作家を輩出したアーティスト集団、京浜兄弟社とは? これまで語られることがなかった全貌が明らかに!

■京浜兄弟社の母体となったバンド、東京タワーズが結成された1982年から、京浜兄弟社として音源リリースやライヴ主催等を行っていた1994年頃までの音源をCD10枚にコンパイル。コンピレーション『誓い空しく』をはじめ、自主制作で発売されたレコード&カセット収録の楽曲、そして未発表のデモテープ&ライヴ音源まで!

CD1|CD「誓い空しく」(1991年京浜兄弟社/プロデュース:岸野雄一、録音:山口優)より。
CD2|CT「Snack-O-Tracks」(1993年京浜兄弟社)「誓い空しく」のアウトテイク、リミックス、ライブバージョンを収録。初CD化。
CD3|CT「空しき誓い」(1993年京浜兄弟社/プロデュース、録音:山口優)初CD化。
CD4|CT「クリスマスソングス」(1991年京浜兄弟社)とCT「幸せをキスに掛けて」(1986年京浜兄弟社)よりの抜粋。問題のカトウさんのテープなど。
CD5|1985~90年の間に発売された各アーティストの自主シングルより精選収録。
CD6|カセットマガジン「HI'LDE」「C-M」「BICAN」、コンピレーションCD「ロスト・イヤーズ・イン・ラビリンス」「Drive To Heaven, Welcome To Chaos」から京浜兄弟社所縁のアーティストの楽曲を精選収録。
CD7~10|各アーチストによる自主制作カセット、未発表デモテープ、未発表ライブ音源から4CDに渡り精選収録。

ブックレット(全108ページ):

■インタビュー/寄稿:石沢ミチキ/今井弘文/岡田裕二/岡村みどり/加藤賢崇/神戸誠/菊地成孔/岸野雄一/倉地久美夫/ゲイリー芦屋/冷水ひとみ/高井康生/常盤響/中嶋勇二/永田一直/蓮実重臣/松前公高/宮崎貴士/もりばやしみほ/モンシロチョーズ(高橋久美子・小嶋智子)/安田謙一/山口優
■機関紙「京浜通信」「MANUERA」等 精選再録
■岸野雄一による全曲解説
■年表 など
付録:京浜兄弟社 ファミリーツリー
■マスタリング:永田一直
■装丁:常盤響
■総合監修:加藤賢崇

□京浜兄弟社BOX 概要(企画書段階のもの)□

●タイトル:21世紀の京浜兄弟者 -Histroy of K-HIN Bros. Co. 1982~1993-
●仕様:CD10枚組+ブックレット
●発売予定日:2014年9月10日
●予価:15,000円(+消費税) 16,200円(税込)
●発売元:ディスクユニオン / SUPER FUJI DISCS

●プロデューサー:加藤賢崇

■選曲基準:

○京浜兄弟社の母体となったバンド・東京タワーズが結成された1982年から、京浜兄弟社として音源リリースやライブ主催等を行っていた1993年頃までの自主制作音源(メジャーからのリリースは除外)

○京浜兄弟社のイメージを持っていて(周辺で活動していたアーティストも含む)、現在でも聴かれる意味があり、歴史的・資料的な価値も高い音源

○初CD化の音源を優先するが、CD化済でも歴史的意味のある重要な音源については収録

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●収録内容

DISC1:『誓い空しく』(1991年/京浜兄弟社)

DISC2:『Snack-O-Tracks』(1993年/京浜兄弟社)
※オリジナルに収録されていた加藤賢崇『若さ、ひとりじめ』のカラオケは2014年のリイシュー盤に収録のため除外

DISC3:『空しき誓い』(1993年/京浜兄弟社)

DISC4:X'mas Tapes
○カセットテープ『クリスマスソングス'91』(1991年/京浜兄弟社)&『幸せをキスに賭けて』(1986年/同)の2in1

DISC5:Singles
○京浜兄弟社関係者が様々なレーベルからリリースしたレコード音源を収録
○収録候補音源
・もすけさん「愛猿記」(さるすべり)
・林茂助「平成バラエティ」(さるすべり)
・クララサーカス「エンジェル・オーファン」(ナゴムレコード)
・倉地久美夫「LOVING THE OBSOLETE WORDS...」(Onnyk / ※GESOとのスプリット12inch)
・SYZYGYS「SYZYGYS」(CAFE DISC)
・Fib「隕石だ!気をつけ給え」
・シュールデジール「SUR D'ESIR」


DISC6:Compilations
○様々なレーベルのコンピレーションに収録された京浜兄弟社関係者の音源を収録
○収録候補音源
・『WELCOME TO HEAVEN, DRIVE TO CHAOS』(WAVE)
 *EXPO/コンスタンスタワーズ/SYZYGYS/ティポグラフィカ/ラエモンズ 収録
・『HI'LDE VOL.1』(CSV渋谷)
 *コンスタンスタワーズ 収録
・『HI'LDE VOL.2』(CSV渋谷)
 *もすけさん/クララサーカス/SYZYGYS/ケラリーノサンドロビッチ&どくろ団 収録
・『Hi'lde #3 』(CSV渋谷)
 *ART CORE FUNK/くまさんチーム/佐伯健三&どくろ団 収録
・『C-M Vol.4』
 *もすけさん/クララサーカス 収録
・『BICAN』
 *松前公高+後藤浩明/耳から回虫/ヤングホルモンズ/SYZYGYS 収録
・『ロスト・イヤーズ・イン・ラビリンス』(ベル・アンティーク)
 *ZYPRESSEN収録
※『ハレはれナイト』は2014年にリイシューされたため候補外


DISC7:Tapes
○京浜兄弟社関係者が自主で制作・販売したカセットテープ音源から抜粋収録
○収録候補音源
・オーガニゼーション「TAPES」
・ハイポジ「天下のハイポジ」
・林茂助「LD」
・林茂助「私、負けましたわ」
・蓮実重臣「前徴味」
・松前公高「あなたはキツネ2」
・松前公高「あなたはキツネ3」
・モンシロチョーズ「モンシロチョウのしくみ」
・ラッカスビーンズ「そっとしておいて」


DISC8:Demo Tapes
○京浜兄弟社関係者が制作したデモテープ音源を収録
○収録候補アーティスト
・ATTIC
・EXPO
・クララサーカス
・コンスタンスタワーズ
・SYZYGYS
・ティポグラフィカ
・ドカベン
・Being Beautious
・ポラロイドポッシュ
・もすけさん
・モンシロチョーズ
・ヤングホルモンズ
・ラッカスビーンズ


DISC9 & 10:LIVE
○京浜兄弟社関係者のライブ音源を収録
○収録候補アーティスト
・ART CORE FUNK
・ウィードベース
・EXPO
・オーガニゼーション
・KING & COUNTRY
・倉地久美夫
・クララサーカス
・コンスタンスタワーズ
・ZYPRESSEN
・東京タワーズ
・ハイポジ
・もすけさん
・モンシロチョーズ
・ラッカスビーンズ


※ディスク10にCDエクストラとして、当時の写真/フライヤー画像/ライブ映像を収録予定


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●ブックレット内容

○関係者インタビュー(インタビュアー:ばるぼら 他数名を予定)
・取材候補:岡村みどり/加藤賢崇/菊地成孔/岸野雄一/ゲイリー芦屋/常盤響/永田一直/蓮実重臣/山口優

○関係者コメント
・依頼候補:石沢ミチキ/今井弘文/大谷由美子/岡田裕二/神戸誠/倉地久美夫/幸喜俊/坂本光三郎/冷水ひとみ/高井康生/高橋久美子/中嶋勇二/伏黒新二/松前公高/もりばやしみほ/ムードマン

○京浜兄弟社をよく知る方々の原稿
・依頼候補:宮崎貴士/安田謙一

○京浜通信(MANUERA)&キング からの抜粋収録

○京浜兄弟社 沿革
※ブックレット冒頭に掲載、京浜兄弟社設立~マニュアルオブエラーズ社名変更の流れを1ページに分かりやすくまとめる
○当時の写真&フライヤー
○収録ディスク解説
○ファミリーツリー
○年表


Discogsの基調情報

「誓い空しく・2020年エディション」通販ページ

これまでの記事を読んでご興味を持たれた方は、ぜひお聞きになってみてください。以下より注文ができます。

紹介記事 仏 LE DORON誌

国内ではほとんどレビューは見かけられませんでしたが、フランスのカルチャー誌「レ・ドローン」が特集記事を組んで紹介してくれました。音源もいくつか聞けます。

 明日からは、また新たなトピックを展開していきたいと思います。Twilogというページに、自分が過去に書き込んだツィートの数々を発見しましたが、書いた当時は140字で書ききれない事項をミツミツに詰め込んで書いていたので、それらのトピックを拾い上げて展開していくのと、現在進行形の世相を反映したトピックを同時進行していこうと思います。しかし、過去ログを読んでも、現在と言っていることは全く変わっていないので、その差異はほとんど無いと思います。

今後ともフォローやサポートをよろしくお願いいたします。



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