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個室ビデオのシャワー

みなさんは個室ビデオを利用したことはあるだろうか。実は僕は一度だけある。数年前の冬のことだ。

その頃僕は中野に住んでいた。新卒一年目のサラリーマンで、サラリーマンの集まる会社で働いていた。いやほんとにもうザ・サラリーマンの会社だった。とても偉い役員が挨拶にきたときに、上司に「ほんとすごいサラリーマンだよな、お前もあんな立派なサラリーマンになれよ!」と言われるくらいだ。余談だが、そのとき僕は会社を辞めることを決心した。

そんなサラリーマンイヤイヤ期の僕であったが、生活の面においても少しばかり荒れている部分もあった。といってもゴミをたまにしか捨てられずにたまったり、床に物が散乱してたりとかせいぜいそのレベルだ。そして一番問題だったのが、払えないわけではないのに公共料金の支払いを滞納してしまうことだった。今考えると、働くだけで全ての社会性ポイントを消費してしまっていたのだと思う。普通にクレジットカードで払えばいいのだが、当時はそんな手続きをする気力すらなかったのだ。

確か水道料金の支払を滞納して4ヶ月くらいだったと思うが、とうとう水道が止まった。めちゃくちゃ驚いた。蛇口をひねっても水が出ないのだ。そんな経験、大地震に遭遇したときにしか味わうことはないだろうと思っていたけど社会性を使い果たした人間にも訪れるのだ。

すぐに水道料金を支払わなければ。振込用紙はすぐに見つかった。色々と考えないといけないことはあると思うが、そのときすぐに思ったのはシャワーをどうしようだった。何故だかもう覚えてはないのだけど、一番最初に対処しないといけないと思ったのはシャワーだった。そして一番近くにあったシャワーを浴びられる場所が個室ビデオだったのだ。振込用紙と財布と着替えを持って急いで部屋を出た。個室ビデオでは、真剣な眼差しでDVDを吟味するおじさん達には目もくれず、シャワー利用だけのプランがあったのでそれをカウンターでお願いした。ボタンを押すと何秒かお湯が出るタイプのシャワーだったので、僕はボタンを何回も押した。何回も押さないといけないことが罪滅ぼしのように感じて、少しだけ心地よかった。部屋の水道は、次の日の朝には使えるようになっていた。

それから数年経った今では、当時からすればきちんとした生活をしている(無職ではあるけどそれは一旦置いておいて)。たまに個室ビデオの看板を見るとこの出来事を思い出すのだ。今多少なりともまともな生活を送れているのは個室ビデオのおかげでもあるんだろう。ありがとう個室ビデオ、ありがとう宝島24。


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