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第121号 コバルトブルーよりも深い青さ

2023年7月11日

昔々といっても10年くらい昔の話、うら若き1人の女性と知り合いました。
聞けばその女性は社会人1年目で、学生時代から一生懸命に勉強し、品行方正、成績優秀、教員からも一目置かれる存在であったそうです。

ある時、私が参加する某学会に偶々その女性も一緒に参加しており、せっかくだからと一献。

吞みながら彼女は私に、歯科業界、地域保健、公衆衛生、などなどに関して熱く語ってくれました。

勿論私もその分野においては一家言を持っており、ただ黙って聞いているはずがありません。

宴もたけなわ、話にも熱を帯び、時に意気投合し、時に反目し、駄菓子菓子!根底に流れる生き様のようなところでは互いに共感し合いました。

その時の彼女はまだ弱冠二十代半ばであったでしょう、コバルトブルーよりも深い青さで私に真っ向から意見を吹っ掛けてきます。それに対して私は経験と観察から得られた持論を丁寧に返し、また彼女は青臭い論法で私に仕掛けてきます。まさに丁々発止のそのやり取りの中、青臭いと言っても彼女は真剣そのもので、決して嫌な気がするものではありませんでした。

私も彼女と同じ歳の頃は先輩達を捕まえては解の無い質問をぶつけて煙たがられたものだなぁ、と思いを馳せながら、むしろ清々しいやり取りであったと記憶しています。

青さ青臭さは若さです。若いうちはとことんまで青臭くて良い!

その青く青臭い意見に対して何処まで対峙できるかもまた、先輩に課せられた試練でしょう。

当の彼女もやがて結婚し、出産し、長期休暇となり随分と久しく会うことはありませんでしたが、先日「職場復帰することになった」との連絡を受け、お互いの近況報告を兼ねて会うことになりました。

何とまあ本当に押っ魂消ましたよ!

あんなに尖っていた彼女が、環境に配慮し、同僚に配慮し、私に配慮し、我欲を前面に出すこと無くしっかりと調和のとれた話題転換をしてくるのです。

「あの時のあの青さは、今は見る影も無いね」

と伝えたところ

「嗚呼、当時の私は何も知りませんでした。若かったんですよ、ただそれだけです。私も色々経験しました。今こうやってお話しさせていただくにあたり、私はちゃんと成長しているでしょうか」

まさに【吾唯足知】の境地ですよ。


それにしても全くもって私自身に対しても言い得て妙な話です。

彼女と話すことにより、私は私自身を見つめ直す機会を得ていたことに気づきました。

お互いに少し成長したことに気付き、確認しあい、再会を約束して別れました。
年を重ねるのも悪くないですね。

(注;登場人物の女性はフィクションです)

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