見出し画像

漫画「プラネテス」人を愛することの重要さを学ぶ宇宙漫画

よく、僕が一番好きな漫画は何か、と聞かれると答えるのが、
この「プラネテス」です。
僕が初めてこの漫画を読んだのは、高校二年生の時で、読んだ時は漠然と、「なんかすごい物語を読んだなあ...」くらいにしか理解をすることが出来なかったのですが、何度も何度も読み返していると、そのたびに脳に心に染みてくる、そんなすごい漫画です。

実は、今週(22年1月25日くらいから)この漫画とアニメをめぐって論争が起きており、この投稿ではその論争について何か特に言及をしたいわけではないのですが、どうせ近々プラネテスについて書くだろうと思っていたので、じゃあちょうどいいや、ということで書こうと思います。

結構、これまでいろんな人に対して喋っていたり、友人と何回か行ったstand.fmとかでも喋ったりしたので、人によっては「またプラネテスか」と思われるかもしれないですが、気にしません。

デブリ(宇宙ゴミ)の回収を生業とする主人公が
一人前の船乗り(宇宙飛行士)になっていく物語

プラネテスは、2070年代に、人類が宇宙空間に経済圏を広げている時代が舞台。だいたい、主に地球~月までに人類領域を広げており、今の南極くらいのポジションで火星にも人類が進出している、くらいの世界観です。

主人公のハチマキ(星野八郎太)はデブリを回収する業者の船に乗り込み、宇宙空間に浮遊するデブリを回収する船外活動員として生業を立てており、
夢は自分の宇宙船を購入し、自由に宇宙を旅することで、船を購入するために働いていると語っています。

そんな中、人類の活動圏の拡大と、ほぼ無尽蔵な資源の採取のため、木星に人類初となる有人派遣を行うことが発表され、ハチマキがその木星往還船「フォン・ブラウン」の乗組員に志願をする、というのが物語の大筋なストーリーです。

プラネテスは、このように、宇宙が題材となっている漫画ですが、その根本にあるテーマは「人の孤独」にあると思っています。
見出しに書いている、"一人前の船乗り"になる上で、孤独を理解し、受け入れ、乗り越えていく必要があるからなのです。
では、そのことについて、出来るだけネタバレにならないように、
というか、初見で読んでもらった時の楽しみを失わせることが無いように、だけども魅力を感じてもらえるように説明していきます。

船乗りが一度はかかってしまう病気 "はしか"

何故、この漫画の重要なテーマが孤独であるのか、それを語る上で、プラネテスの中に存在する、船乗り特有の架空の精神病 "はしか" について避けて通れません。

"はしか"は「自分がなんで宇宙へきたのだろう」とえんえんと考えてしまう病気、と説明されています。なぜ船乗りが "はしか" に罹ってしまうのか、物語を読んでいると、以下のように理解することが出来ます。

船乗りの多くは、宇宙に魅了されて、宇宙空間を職場とする仕事に付き、船乗りであることに誇りをもって人生を送ります。(人によっては、体を壊して地球に降りなければならないとなると、絶望して自害してしまうほど)
しかし、どこかの拍子に、宇宙の途方もない広大さや偉大さと、宇宙と比較した自分自身の存在の小ささを認識し、
「宇宙に対してこんなにちっぽけな自分が存在している理由とは何なのか?」
と答えの見つからない問いを延々と繰り返してしまう、これが "はしか" であるのです。
では、"はしか" を乗り越えるために必要なものは何か、それが人との間に育まれる愛である、とこの物語の中では描かれています。

宇宙は、独りで生きるには広すぎる

僕がすごく好きなシーンの一つが以下でして、申し訳ないですが少し描写させてください。
50年以上前に、自らの遺言に従って地球の重力圏外に向かって宇宙葬として射出された船乗りのミイラのデブリに、ハチマキたちが遭遇するという回。
この回から、超重要人物の新人の女性船乗り、タナベが登場します。
プラネテスはタナベの存在によって、物語の核心である、愛の重要さに迫ることになります。

ハチマキは、このミイラを再度射出するべきと主張し、
タナベは遺族の元に返還するべきであると主張します。

ハチマキ
「そのオッサンはテメエのやり方を最期まで貫いたんだ それの何が悪い!!」
「独りで生きて独りで死ぬんだ それが完成された宇宙船員だ!」

タナベ
『独りで生きて 死んで なんで満足できるんですか バカみたいですよ』
『宇宙は独りじゃ広すぎるのに』
(プラネテス 2巻 PHASE 7)

画像2


このやり取り、このシーン、何度見返してもすごくいいんですよね。
(たぶんこのシーンだけ切り取っても、良さが10%くらいしか伝わらないので、全編読んでください。)
"はしか" を如何にして克服するか、にもつながるのですが、ここでまだハチマキが気づいていないことに、タナベは幼少期からの経験の中で直感的に理解をしているんです。それは何かというと、宇宙に向き合っていくためには、人との間の愛が必要である、ということです。

宇宙に向き合うために必要なのは、
他者との間に生まれる愛である

もう少し説明をすると、"はしか"とはなにか、
それは、宇宙はあまりにも広大すぎて、自分独りが勝手に生きて死んでいくだけの身の上では、自分の存在の矮小さにとらわれ、自分がこの宇宙の中で存在する意義を見失ってしまう状態のことなのです。
しかし、大切な人との関係性、愛する家族や友人が存在し、その関係性が碇となることで、
「自分独りでは死ねない、また、愛する人の元に戻り、互いに関係しあって生きていきたい」
そのように強く思うことで、どれだけ離れた場所に行ってしまっても、元の場所に帰る動機が生まれ、宇宙の中での自分の立ち位置を認識することができる。その結果、広大な宇宙に向き合うことが出来るようになる。
そうなることで、人はようやく一人前の船乗りになることが出来るのです。

もう一つだけ、僕の好きなセリフを紹介させてください。
ハチマキが、母親と "いい船乗りの条件" とは何か、について話し合うシーンがあります。ちなみに、ハチマキの父親は火星と地球を機関長として5度往復した船乗りで、木星往還船の機関長に名指しで指名されるほどの名船乗りです。
そんな夫を持つハチマキの母はこう答えます。

必ず生きて帰ってくることよ
言いかえればね
どこに行っても何しててもかまわないけど
私のトンカツの絶妙なおいしさを忘れないでいろってことよ
シンプルでしょ?
プラネテス 2巻  PHASE 11

これ、すごく痺れるんです。
つまり、宇宙の中でどこまでも遠くに行ってもいいけども、家族の味であるトンカツの味(=愛の具体的な形)を忘れず、無事に生きて戻ってこられる
それが星野家にとっての、いい船乗りの条件である、ということなんです。

正直、高校二年生の時はこのセリフの重みに全然気づけていなかったのですが、改めて読み返しているうちに、心に染みてきたセリフでした。

もうこれ以上はやめておきます。本当は、3巻や4巻についても語りたい。

本当は、プラネテス好きが絶対に語りたくなる、 "人類最高のしりとり" があるんですが、それを話すのはさすがに野暮すぎるので、やめておきます。

プラネテス、人生の中で間違いなくあと100回くらい読み返す漫画ですが、
なんとたったの全4巻なんですよ。
たった4巻で人生の学びを得られるなんて、コスパ鬼すぎません?
マジ宇宙。

これは本当に、読んでほしいなぁ~~~~~~~

画像1

プラネテス(1) (モーニングコミックス) 幸村誠


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?