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【こんな映画でした】68.[紳士協定]

2021年 1月23日 (土曜) [紳士協定](1947年 GENTLEMAN'S AGREEMENT アメリカ 118分)

 エリア・カザン監督作品。グレゴリー・ペック主演。撮影当時31歳。[アラバマ物語]といい、この映画といい、あらためてこの俳優を見直すことになる。前作は黒人差別を、今作はユダヤ人差別を糾弾するもの。
 それにしてもユダヤ人差別という思想は、ヨーロッパから移民してきた人々とともに伝来してきたものである。人口的にも面積的にも、そして年代的にも広範囲にわたる差別である。

 この映画が作られた1947年というのは、ナチスのユダヤ人に対する蛮行の歴史の直後であるのに、その反省もなくユダヤ人を差別している。その差別はナチスのように直接その命を奪うものではないにせよ、不当な扱いは間接的に彼らを貧困とその結果としての死に追いやるものである。

 歴史の浅い、しかしヨーロッパから流れてきた移民であるアングロサクソンたちは、自らのアイデンティティの根拠をユダヤ人をはじめとした黒人やヒスパニック・イタリアン・アイリッシュ等々を差別することで確立していたかのようだ。その中には裕福かつ学歴的に高い人たちもいただろうが。

 耳の痛いセリフとしては、いわゆる「いい人」が差別を温存・助長してしまう、と。思っても行動として表さなければ何も変わらない、とも。「紳士協定」とは実に欺瞞的な言葉だ。その内容たるや「紳士」の名に恥じるものでしかない。語源的にはどうなのだろうか。

(58分、ユダヤ人の科学者、高齢男性)私は信仰の厚いユダヤ教徒ではない。それに私は科学者だから、ユダヤ民族を認めない。ユダヤ民族やタイプ(type)などは存在しないのだ。つまり科学者として言えるのは、"私はユダヤ人ではない"という事。この顔はユダヤ人だが、基準が変わった、科学的に。....いまの時代、宗教を厚く信仰する人は少ない。だがなぜユダヤ人だけが宗教性を強調するか。わかるかね。....ユダヤ人でない事が有利だからだ。だから逆にユダヤ人は誇りを持つ。
【「人種」や「民族」などの(政治的な意図により)作られた概念を安易に使うことは危険だ。その虚妄性について、もう一度勉強し直さないと。】

(グリーンの友人のユダヤ人男性で元将校のデイブとの対話)「偏見の問題はユダヤ人だけじゃない」「思ったとおりだった。知るほどにいやな臭いがしてくる」「そうだろうな。侮辱されたことがないから、その衝撃も大きいはずだ」「いずれ慣れるとでも?」「一生のことを数週間で経験する、それが毎日続くんだから。つまり同じ経験でももっと傷つくはずだ」
【半年の予定で「ユダヤ人」になりすまして生活していくことにより、「反ユダヤ主義」についてルポを書こうとしていた主人公。しかし、自分の子供が受けた差別により挫折し、二ヶ月で「ユダヤ人」をやめることとなる。】

(キャシー)この優越感は、偏見ではなく現実よ。でもあなたはその現実をねじ曲げ、形の違うものに変えてしまうのよ
【これは主人公の婚約者からの辛辣なコメント。「ユダヤ人」でなかったことでホッとしている、といった隠された心情(優越感)があることをキャシーは認めている。鋭い指摘だ。】

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