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【こんな映画でした】121.[暗殺の森]

2019年 4月26日 (金曜) [暗殺の森](1970年 IL CONFORMISTA THE CONFORMIST 115分 イタリア/フランス/西ドイツ)

 監督はベルナルド・ベルトルッチ。過去に[ラストタンゴ・イン・パリ] ・[ラストエンペラー] (1987)・[シェルタリング・スカイ] (1990)、そして[リトル・ブッダ] (1993)を。この映画は、『続 ヨーロッパを知る50の映画』(狩野良規)に紹介されていたもの。

 原題「コンフォーミスト」は、「遵法者」。当然のことながら、原題の方が意味深いものがある。「暗殺の森」はたしかに「森」で暗殺されるのだが、そこだけに重点をおいて作られた映画ではない。イタリア現代史の不幸な一面を鋭く描き出しているというべきだろう。昨日の愛国者が、今日は裏切り者になっていたというわけだ。つまりムッソリーニの信奉者たちの、昨日と今日である。

 それにしても映画の作り方が、何かどこか違う雰囲気がある。それが監督の手腕なのだろう。主人公マルチェロのジャン・ルイ・トランティニャンが町を歩くシーン一つとっても、それはとても洒落ている。彼の他の作品では、[男と女] (1966)と[Z] (1969)を観ている。



 2019年 4月30日 (火曜) 二回目を観る。やはりいろいろと気付かされる。特に伏線であるとか、言葉の端々とか。この映画のほとんどは車で、教授夫妻を追跡するシーン。最終的にその車に追いつくまでに、これまでの経緯がフラッシュバックされている。そのせいで一回目に観たときは、それがなかなか分からず苦労した。やはり二回目はスラスラと、そうだったのかと分かった。

 教授夫妻との会食(中華料理店)シーンでの会話では、教授が「私は賭けてもいい。君は転向する」、と。それに対して「無理ですよ」。ジュリアが「どんな学生でした」と尋ねると、「まじめすぎた」「まじめで悪い?」「まじめ人間は、実はまじめでない」と教授。ある意味本質を抉るやりとりだ。

 あと見事だと思ったのは、踊りのシーン。アンナ(ドミニク・サンダ)とジュリア(ステファニア・サンドレッリ)の二人が踊るシーンもそうだし、そこにいる人たちみんなを巻きこんで、輪になって踊るシーンも。そしてその延長上に主人公をその輪の中に巻きこんで閉じこめてしまう(?)シーン。彼の困惑した表情が象徴的だ。

 映画のラストで教授夫妻の暗殺成功の結果、主人公が秘密警察で出世できたことを妻ジュリアと会話している。そしてその最後に「私は義務を果たしただけだ」、と。

 なおこのマルチェロ夫妻の間には、最初から愛情と呼べるものはなかったようで、ある種愛の不毛を描いた映画でもあろう。映画のオープニングとエンドロールで流れる音楽が、その愛を歌っている。重い映画ではあるが、歴史に学ぶためにも観ておくべき映画の一つだろう。

 2022年 6月17日 (金曜) ジャン・ルイ・トランティニャンが91歳で亡くなったとのこと(6月19日 (日曜)付け、朝日新聞)。

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