【こんな映画でした】481.[ミツバチのささやき]
2020年 4月 3日 (金曜) [ミツバチのささやき](1973年 EL ESPIRITU DE LA COLMENA SPIRIT OF THE BEEHIVE スペイン 99分)
原題は「ミツバチの巣の精霊」という意味だそうだ。ヴィクトル・エリセ監督作品。説明的ではない映画と記されていたが、たしかに説明はまったくない。見終わって、一体これは何なのだろうというのが正直なところ。印象としては少女アナ(撮影当時6歳くらいか)がとても良い。ほとんどこれだけでもっていると言えるかもしれない。なお姉のイサベルは当時9歳、と。*
最初の映画上映のシーンは、いかにも田舎への巡回という雰囲気。子どもたちがそのトラックに群がり、今度はどんな映画か? と期待している。そしてその上映場所は公民館で、みんな自分用の椅子を持参して観る。なるほど。
子どもたちが食い入るような眼で、その映画を観ている姿は、かつての私の小学校時分を思い出す。そしてその映画は(入口に貼ってあったポスターから)何と[フランケンシュタイン](1931年のアメリカ映画、ジェームズ・ホエール監督、ボリス・カーロフ主演)。この映画は結構、映画人に影響を与えているということか。ティム・バートンもそうだった。
本当に映画のシーンについての説明はなく、登場人物たちにも説明的なセリフはない。オープニングシーンで時と場所のテロップで「1940年」「カスティーリャ」と。「ミツバチ」に関しては、アナたちの父親が養蜂の仕事をしているシーンが出てくる。このミツバチについて説明的なコメントは出て来るが、その意図は分からない。
*
父親の耳に、公民館での映画の「声」だけが聞こえてくるように設定されている。その部分も何らかの意図が監督にはあるはずだが、まだ私には分からない。あるいは母親のテレサの手紙の文章には「内戦」という言葉が出て来る。誰に当てた手紙なのか、そこでは私には分からない。
いずれにせよこれらのことは、スペインの1973年当時のフランコ独裁政権の検閲があるからだ。そのために韜晦しているということなのだろう。それはともかく検閲では、映像はまったくカットされなかったとのこと。要するに何が言いたいのか、非常に分かりにくいということだろう。そして自ずから観る人もいない、つまり受けないだろうと判断したのだろう。
妹のアナが[フランケンシュタイン]を観て、姉のイサベルに訊ねる。どうしてフランケンシュタインは女の子メアリーを殺してしまうの? と。後で教えてあげるということで、その夜アナがその答えをせがむと、なんとイサベルは「あれは映画の中のことだから」と。当然だろう。役者は生きている。
次いで彼女たちの学校のシーンがある。30人ほどの一斉授業。アナが教師の質問に答えられずにイサベルがコソッと教えている。その学校からの帰りに、寄り道をして廃屋と井戸のある広々とした場所へ。ここで一つのエピソードが。
それはアナが一人でやって来た時に起こる。逃亡兵ともされるがゲリラかもしれない。その残党の一人がそこへ逃げ込んでくる。そしてアナと対面することに。このシーンで割れた壁の隙間からアナがその男性を覗き、目が合うのだが、その時の写真がDVD付属の解説書にも掲載されている。ただ、これは私には裏表逆になっているように思えた(印刷時によくあるミスだ)。
それはともかくアナが、その傷ついた男性にリンゴをあげるシーンの表情がいい。映画[フランケンシュタイン]を観ている時と同様に。何回かの交流のあと(それは一日のことか、または数日にわたってのことなのか分からない)発見され射殺される。
後日、アナはそこへ行き、血の跡を見つけることに。何を感じたのだろうか。「死」というものをわかっていたのだろうか。ともかく何か理不尽なものを感じたのであろう。父親の制止を振り切って、家出をしてしまう。翌朝、見つけられるが、おそらく風邪をひいていて寝込むことに。そして回復してベッドから起き上がり、寝室からベランダへの扉を開けて、何かに耳を澄ますかのように外を眺めるシーンで映画は終わる。最後に「私はアナ」と口にして。
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映像としては、さすがに今となっては古いので単なるDVDでは発色が悪い。おそらくブルーレイディスクなら、かなり良いのではと期待するのだが、未見。ただそれでも光の使い方というか、写し方には味わいがあるのがDVDでも見てとれる。
レンブラント的な光の当て方、つまりアナとイサベルを画面の中心に置いて、そこにだけ光線を当て、二人の周りは暗くする。あるいはフェルメール的な左側から室内に入ってくる優しいベージュ色の光線に、部屋の中を浮き立たせるような映像。美しい映像である。であるならやはりこれはブルーレイディスクで観たいものだ。
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