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【こんな映画でした】332.[ライアンの娘]

2022年11月22日 (火曜) [ライアンの娘](1970年 RYAN'S DAUGHTER イギリス 206分)

 デヴィッド・リーン監督作品。これまた大作。三時間余り。序曲に始まり、インターミッションがあり、再開後にまた風景の静止画面に音楽で始まり、ラストシーンが終わった後、そのショッキングな余韻を静まらせるためのような音楽が流れる。これでトータル206分ということになる。この映画はブルーレイディスクではなく、普通のDVD2枚組。メイキングもある。

 主役の教師チャールズにロバート・ミッチャム(撮影当時52歳)、その妻となるローズ(ロージー)にサラ・マイルズ(撮影当時28歳)。チャールズは中年男性ということでいいのだが、ローズはまだ二十歳前ではないかと思う(メイキングで「19歳」と言っていた)。だからサラ・マイルズはややきつかった。不倫をしてからは、一挙に老けてしまうのでちょうど似合いの雰囲気になったのだが。なお彼女は本作の脚本家の妻ということであった。しかしそのコネクションからではなく、一般オーディションを行った上での決定だったと言っていた(やはりメイキングで)。

 いろいろと感じ・考えさせられる映画であった。まず何より雄大な自然の描写が凄い。平和な美しい自然と、荒々しい猛り狂う海の有様などをたっぷり見せてくれる。セリフがなくても、その映像がいろいろと私たち観客に語りかけてくるのだ。

 時は第一次世界大戦中。場所はアイルランドの海岸沿いの村。どことも固有名詞での特定はない。イギリスの支配下にあって独立義勇軍の活動が見られる。つまり政治的にも緊張感ある社会情勢である。この小さな村にも守備隊としてイギリスの軍隊が駐留している。

 この村で酒場を営むのが、主人公ローズの父親ライアンである。いずれ分かるのだが、彼はイギリス軍のスパイでもあった。酒場というのは、様々な情報が入ってくるので彼がイギリス軍から見込まれたということか。ライアンにしても無事に商売を続けていく上で利益になるからであろう。もっとも彼も「愛国者」を自称しているのであるが。

 ローズという少女の母親は出てこない。父親がかなり甘やかして育ててきたようだ。自分の娘のことを「プリンセス」と呼びかけるくらいに。そんな彼女なので、世間知らずの高慢ちきな女性になっているようだ。彼女が小さい頃には、あのマイケルにもおんぶしてもらって、ということだが、今や醜いマイケルを露骨に嫌っているところにも彼女のいびつな人間性の一端がうかがわれる。(先に言ってしまうと、ラストシーンで彼女はマイケルと和解することになる。マイケルがローズを嫌う理由は何もなかったのだが。)

 ローズは密告者として疑われるが、その根拠はイギリス軍中佐との不倫と、家が駐屯地に近いということからである。証拠はない。しかし村人たちは一旦思い込んだら、みんなその方向で一致してしまうのだ。集団心理というか、狂気が荒れ狂うことになる。だから本来、村人たちから尊敬されているはずの教師のチャールズに対しても容赦がない。要するによそ者だからだろう。よそ者はどこまでいってもよそ者であり、表面的には付き合っていても心底からのものではない。それも永久に。これは洋の東西を問わず同じことであろう。どんなに貢献しても、最後にひと言「よそ者」、ということで排除されてしまうのだ。

 さてラストシーンは、二人が乗ったバスが、遠く向こうへ走っていくもの。はたして彼らはダブリンに行ってから、上手くやっていけるのだろうか。曖昧なままで、観客にその解釈はまかせるということなのだが。私はローズが人間的に成長して二人で生きていけたらいいのに、と思うのだが。果たして?

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