坂を転がるように
この頃の主人の様子を、私はずっと手帳に書き込んである。
これは、前にも書いた『クロイツフェルト・ヤコブ病患者家族の掲示板』で、
「病気の状況を書き残しておけば良かった」という書き込みを見たからで、今このnoteを書くのに役立っている。
箇条書きみたいに、なるべく感情を入れず、日付と起こった事だけを書いた。
おかげで時系列が繋がって来るし、感情は入ってなくても、読めばちゃんと思い出す。
どんどん、手助けが必要になり、色んな事に時間がかかるようになって来ていた。
あれこれ試して、「こうするのが一番良さそう」を見つけた途端、次のステップに進んでしまって、またやり方を考えて…その繰り返し。
ヤコブ病の主な症状に、「急速に進む認知症」がある。
「普通の認知症患者が何年もかけて進む過程を一気に駆け抜ける」とも書いてあった。
時間の感覚が怪しくなり、夜中に起き出したり、明るいうちに寝に行こうとしたりする。
少し前にした事を覚えてなくて、風呂上がりの夕ご飯の時に「風呂は?」と聞いたり、もうパジャマになってるのに「着替える」と言ったりする。
トイレを失敗してしまって、下半身の衣服を全部脱いで押し入れになおしてた事もあった。
みんな、認知症あるあるだと思う。
反面、猫の名前は覚えてて、「黄菜子、黄菜子」と嬉しそうに呼んだ。
「猫」という単語は忘れても、黄菜子の名前は出て来るので、
そのうち全ての猫が「黄菜子」になった。
私にむかっては、よく「ごめん」と言っていた。
「あやまらんでいいよ」
そう言っては「ごめん」
それが苦しくて、
「ごめん言わんでええから」と言ってもやっぱり「ごめん」
つい半年前まで仕事に行ってた。
今、こんな状況なのに、それでも病気の進行は緩やかだという。
80歳を越えた親が三人いて、墓守りもしないといけないのに。
あなたの仕事だったのに。
すごい親孝行だったくせに、一番の親不孝をしようとしてる。
そんな時に、私の実家から連絡があった。
父親の具合が悪くなって入院し、肺癌が見つかったらしい。
3ヶ月の余命宣告を受けた。
私が主人の介護保険の申請を決心したのは、この事がきっかけだった。
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