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ラジオがきこえる:転地療養の候補地選び

妻はテレビっこだった。
特に「おわらい」が大好きで、京都に生まれた私たちくらいの世代だったらご存知のテレビ番組「蛤御門(はまぐりごもん)劇場」の公開収録に子どもながら毎週応募して見に行っていたらしいから、それはよほどのものだろう。私自身、実際にお笑いを見に行くようになったのは妻と出会ってからだ。

そのうえ彼女はラジオっこでもあった。
彼女と出会ったころ、高校生のころだけど、よくKBSラジオの「TKOのTKO」の話や「メッセンジャーの凹」の話をしたものだ。
そんな彼女はなかなかの関西AMラジオリスナーなので、彼女にとっては転地療養の先の放送電波=関西圏であることも非常に大事だった。

しょうもない話に感じるかもしれないが転地療養の候補地を考えた時に、やっぱり自分の精神状態がどんなときに落ち着くかを知るというのが大事になる。しんどいとき、つらいときに支えてくれるのは、そういった「しょうもない」ことだ。そのあたり差し引いた上で変えること、変えないことのバランスのとれた場所を探すことはなかなか難しい。
私は精神科の臨床で長いこと働いているが、ラジオは精神安定になるメディアの一つだとひしひし感じる。もちろん全員にあてはまることなんてないけど、聞こえるはずのないはずの音や声が聞こえてきたり,考えを止めない脳にブレーキをかけるのに最適だと思う。いまネットですこし検索してみると「ラジオで脳を鍛える」とか「脳が成長」とか書いているけど,それは正しいのだろうけれど・・・多分、ラジオを好きな人で「これで脳を鍛えるんだ」とか言っている人はあまりいないと思う。ラジオはそんなにアクティヴなものではない。ラジオはもっとさりげないし、もっとそっけない。聴くというよりは「きこえる」。もっとパッシヴなことで、最初は自分でラジオをつけるのだから能動的行為なのかもしれないが、聞きだしたあとは、非常にパッシヴな状態と言える。鳴らすのではなく、なってる、かけるというよりは、かかってる。しつこくてごめん。

かくいう私も、今から8年以上前だけれど、名古屋で院生をしていたころ、アカハラ気質な教授との論文執筆や私生活の行き詰まりもあって、相当な精神状態になっていた。そんなときに出会ったのがTBSラジオのポッドキャストだった。Spotifyでストリーミングする今とは違って、確か当時はTBSラジオのサイトにポッドキャストがアーカイヴされていて、そこからダウンロードするフォーマットだったと記憶している。

思い返せば、当時も私は名古屋で「ホーム」レスをしていた。今考えればあの時からずっと「ホーム」がないのかもしれない。名古屋のハードコアバンド、the sugar mouldのメンバー2人に居候させてもらい、その時はものすごく助けてもらった。
そんな居候先のひとつが、そのバンドでサックスをしていたSくんのシェアハウスだった。

そこの住人でナタメというバンドをやっていたHくんからもらったi pod nanoに、ありったけのポッドキャストを詰め込んで人と話す時以外のほとんど24時間を使ってTBSのアーカイヴを網羅して聞き続けた過去がある。そのころの私は眠る時もイヤホンでポッドキャストを聞いていたので、目がさめるとipod nanoのイヤホンケーブルが首に巻きついていることがしょっちゅうあった。もしかするとipod nanoは私を殺そうとしていたのかもしれない。

少し悪い冗談はさておき、私は見事、修士課程をくぐりぬけ二度とは学問の道には戻るまいと決意した。(それから約10年たち、その決意は物の見事に破られることとなる)しかし私の修士課程はTBSラジオのおかげといっても過言ではない。バナナマン、おぎやはぎ、宇多丸、爆笑問題、それまで全くノーマークだった人たちに助けてもらった。

私たちのホームは見つかるのか。それはまだわからない。だが、こうして文章にしてみると、しょうもないこと、友達、ノーマークだったこと、いろんなものに助けられて今なんとか生きていることは事実のようだ。妻と猫と元気満点ではないが生きながらえている。

関西でんぱ圏の海辺を求め、愛媛、牛窓、須磨を目指した私たちがそれこそ全くノーマークだった赤穂に出会うことになるのはもう少し先のようだ。

続く

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