【小説】マゼンタ/シアン/イエロー
スーツ姿を見たのは大学の卒業式以来だった。
印刷の依頼に保険会社から営業の方がいらっしゃるのは事前に幸畑さんから聞いていた。この工場はデスクワーク用のスペースを通らなければ応接室に行けない作りなのだ。ここで働いている他の人すべてではないが、少なくとも私は事前に聞いていない来客があると、すごく緊張して仕事が滞る。そうならないようにの配慮である。
梅津くんは私に気がついて挨拶をしてくれた。私は、彼がすぐに応接室へ行かなくてはならないと思っていたので、素早く会釈だけを返して顔