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MY PERFECT DAYS

かつて、同じ映画をこんなに多くの友人達が見たり話題にしたり考察したことはなかったように思う。『PERFECT DAYS』のことだ。監督はヴィム・ヴェンダース、主人公の平山を演じるのは役所広司。東京を舞台に清掃作業員の男が送る淡々とした日々を描いている。

ある寒い火曜日、自宅から徒歩20分かかる映画館まで、ダウンを着てポケットにカメラを突っ込んで見にいった。帰りにお茶でもしようと考えていたけれど、見終わった時の感情をそのままにしておきたくて、寄り道せずにまっすぐ帰ってきた。

実は、その時に何を感じていたのか、もはや思い出せない。日が過ぎるたびに違うシーンを思い出し、違う感覚にとらわれるからだ。

ある朝は老女の掃き掃除の音がするような気がするし、あるときはカセットテープを聞きながら首都高速で車を走らせている記憶が不意によみがえるし、まぶたの裏に木漏れ日がちらつくこともある。赤い光に照らされながら、笑顔になったり泣きそうになったりもする。

平山がカセットテープで聞いている音楽を慎重に選んだというヴィム・ヴェンダースのインタビューをどこかで読んだ。私にとっても、学生時代に少し年上の先輩方から聞かせてもらっていた曲ばかりで、なかには実家にアルバムを持っているものもあった(ちなみにPatti Smithである)。

SIGMA 45mm F2.8 DG DN | Contemporary, SIGMA fp

今に至るまで、自分が何を感じているのかがひらひらと移り変わってゆき、うまくつかめず、もちろん言葉にはできていない。きっと、年齢やこれまでの人生、そして、置かれた状況によっても違うのだろう。どこに感情がひっかかり、何を感じるかが、その時の「今」を映すのかもしれない。

そんななか、繰り返し思い出すのは、最後のシーンだ。ある人は、この長い数分間を平山の夢だと言い、ある人は平山の感謝が溢れたのだと書いていた。面(おもて=能面)をつけた能であり、見る人によって喜怒哀楽の解釈が変わるのだという人もいた。もちろん本当のところはわからないし、思い出すたびに私の考えることも違う。

時間が経って、私にとってのPerfectな日々とはどういうものだろうということを考えるようになってきた。最後にかかるNina Simoneが歌う "Feeling Good" が手がかりとなるような気がしている。

It’s a new dawn, it’s a new day, it’s a new life for me, I’m feelin’ good.

繰り返す日々は、木漏れ日のような少しの変化と波紋に満ちた、新しい1日、いちにちなのだろう。

RICOH GR IIIx


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