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ツンデレ問答

【第3回心灯杯参加作品】

えー、昨今ツンデレという言葉もひところに比べますとずいぶんと一般のね、オタクではないカタギの方々にも伝わるようになりまして、時代の流れを感じる次第でございます。

さてツンデレと申しましても定義がいろいろとございまして、なかなか統一した見解はないようなんでございますな。いわく、出会った頃はツンツンしているのに付き合いが長くなってくるとデレデレしてくる、いわゆる時間経過とともにツンからデレへ変化するのがツンデレだ、という話もあれば、皆のいる前ではツンツンしているのに二人きりになると急にデレデレする、これをツンデレと呼ぶのだと申す向きもございまして、このあたりはどうにも人によって曖昧なようでございます。しかしなんにせよ冷たいツンと甘えたデレのギャップがいいのだという点には変わりがないようでして、いつの世もギャップに弱いのは男のサガといったところでございましょうか。

ここにツンデレの話をする二人組がおりまして、どうやらその片方はツンデレのお相手が欲しいと申しているようでございます。

「なあなあ、俺さぁ、ツンデレの彼女が欲しいんだけど」
「またお前さんは急に変な話をするねぇ。なんだいツンデレの彼女ってのは」
「知らないのかい、ツンデレ」
「ツンデレは知ってるけれどさ、大概の女ってのは好きな男の前ではデレデレしてるもんなんじゃないのかい」
「それはそうなんだけどさ、他の男たちの前では俺に対してツンツンしているけれど、いざ二人きりになるともう俺にぞっこんでデレデレしてるような彼女が欲しいんだよ」
「いままで付き合った中でそういう彼女はいなかったのかい?いや、そもそも過去に彼女がいたことがお前さんにあんのかね」
「馬鹿にするねぇ。こう見えて俺は『ぷれいぼうい』なんだぜ」
「へえ、それなら今までどんな彼女がいたか教えておくれよ。それを聞いてツンデレかそうでないか判定してやろうじゃないかい」
「ほう、そりゃあ面白そうじゃねえか。ならちょっとやってみるとするかね。まず最初の彼女は幼なじみで」
「はいツンデレいただきました」
「早いねおい。まだ幼なじみってことしか言ってないんだが」
「幼なじみなんてツンデレに決まってる。毎朝起こしに来て『べ、別にあんたのためじゃなくて、あんたが遅刻すると私まで先生に怒られるから仕方なく起こしに来てやってるのよ!』なんて言ってたんじゃないかい」
「何で分かるんだい」
「本当にそうなのかよ。じゃあツンデレだよツンデレ」
「そうか-。あいつはツンデレだったのか」
「で、他にはいないの?」
「そうだなぁ。二人目は学級委員長で」
「そりゃツンデレだね」
「またかい」
「まただよ。学級委員長なんだろ?」
「委員長だったね。真面目な子だったよ」
「ほらみろ。真面目な子ってことはどうせ『今日も数学補習なの?じゃ、じゃあ私が特別に教えてあげようか。か、勘違いしないでよね、これはあくまで委員長として仕方なくやってることなんだからね!』とかいって放課後の教室でマンツーマンで数学教わったりなんかして、それでふとした拍子に消しゴムが床に転がってそれを拾おうとしてお互いの手がぶつかって思わず、『あっ……』とか言って目が合って見つめ合ってそのまま(だんだんテンションが上がって早口になる)」
「おい、ちょっと落ち着け」
「ああ、申し訳ねぇ。つい興奮してしまって」
「しかし見てきたように言うねえ」
「見てたからね」
「え?」
「え?」

しばしの沈黙。

「うん、聞かなかったことにしよう。しかしそうか、あいつもツンデレだったのか」
「そうだよ、委員長といえばツンデレと相場が決まってる。鬼に金棒、猫に小判、委員長にツンデレ」
「それはちょっと違わないか。鬼に金棒と猫に小判がそもそも真逆の意味な気がするし」
「そうかな」
「そうだよ」
「まあツンデレということだよ。それで、他にはいないの?」
「そうだなぁ。三人目の彼女は別の学校のお嬢様だったなぁ」
「ああ、それはもうツンデレだね」
「わかるのかい」
「わからいでか。だってその子はお嬢様なんだろ?」
「そうだね。お嬢様学校に通っていて確か生徒会長をしていたはず」
「間違いなくツンデレだね」
「そうなのかい」
「そうだよ。どうせあれだろ、『か、勘違いしないでくださいまし!わたくしがあなたのような下賤な方に声をかけるのは、仕方なくなんですのよ。そこのところきちんと理解なさっておいで?』とか言って強がるんだけど一般常識に欠けているもんだからファストフードのハンバーガーショップに連れて行ったりすると感動したりするんだろ」
「よく分かったね」
「本当なのかよ。冗談のつもりで言ったんだがな」
「しかしそうか、あの子もツンデレだったのか。気がつけばツンデレってのは増えるもんだ」
「そこだよ、そこ」
「ん?どこだって?」
「いやね、最初にお前さんはツンデレの彼女が欲しいなんてことを言っていたけれども、今までの彼女にだって十分ツンデレの子がいたわけだ」
「そうだなぁ」
「それをお前さんは全く気がつかずにやり過ごしてきちまった訳だ。もったいないことだとは思わねえかい」
「いやあ全くだ。俺という男は今までなんともったいないことをしてきたのか。悔やんでも悔やみきれねえよ」
「いいんだよ。お前さんに必要なのは、過去を振り返ることじゃあなくてこれから、そう、これからのことなんだよ」
「ああ、ああ、まったくお前の言うとおりだ。俺は反省したよ。これからは今、目の前にあることを大事にしていくよ」
「そうだな、それがいいとあたしも思うぜ」

そこでふと、気がつくわけでございます。

「考えてみるとさっきからお前にはこんな情けない俺に色々と教えてもらって、ありがてえ話だ」

男は感動したように目尻を拭いまして、キッと前を向いて言うわけです。

「俺は今気がついたよ。俺に必要なのは過去の女じゃなくて、今目の前にいるお前さんなんだってことがよ」

「べ、別に見返りが欲しくてやってあげた訳じゃないんだからね!」
「お前もツンデレなのかよ」


おあとがよろしいようで。

さや香様主催『#第3回心灯杯』『#三題噺』という事で、『過去』『見返り』『増えるツンデレ』というお題で書かせて頂きました。

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