見出し画像

アルコール依存症② 初期面談

最初の来院の時、患者さんにスクリーニングテストをしてもらいます。
AUDITというテスト方式でやっていました。他にも色々あるみたいですね。
で、採点をしてから入院を決めるための初期面談をします。
ぶっちゃけ、この採点と本人の意思で入院が決まるわけで、ドクターの仕事やろ! と言いたくもなりますが、私もやってました(ぶつぶつ)
次のドクター診察で入院が決定するわけですが、実質的には、ほぼほぼこの日に決まります。

AUDIT (Alcohol Use Disorders Identification Test)

  • 0~7点: 今のままお酒と上手に付き合っていきましょう。

  • 8~14点: 飲酒問題が将来的に起きたり、あるいは既に生じている可能性があります。お酒の量を減らしていきましょう。

  • 15点以上: アルコール依存症の疑いがあります。自分の飲み方について精神保健福祉センターや依存症専門医療機関に相談してみましょう。

点数による評価はこんな感じです。精神科のアルコール治療のために受診するわけですから年季の入った方々が多い。15点以上がほとんどです。
前回のわたしの記事にAUDITへのリンクがあるので、やってみて下さい。ちなみに私は月に一回以下適量飲むだけなので、採点は1点。今のままお酒と上手に付き合っていきましょうという結果でした。

さて、15点以上の結果が出ました。付き添いの家族は今日にでも入院してほしそうな顔をしています。自宅でも色々あったのはお察しです。
患者さんは嫌々連れてこられたって顔をしています。

ただここでたとえ病室が空いていたとしても、確認しなければならないことがあります。それは「断酒する意思があるか」です。

アルコール治療病棟に入院すれば物理的にアルコールは飲めなくなります。一週間は保護室に隔離され、点滴でアルコールを抜きます。もちろんそれで離脱症状も出るでしょうし、なんで入院なんかしたんだと後悔するかもしれません。

入院してから一か月すると一泊の外泊許可が出ます。二か月すると二泊。現在はもっとタイトなスケジュールになっているかもしれませんが、私が勤務していた頃はこのペースでした。

外泊や外出が出来るということは、こっそり飲もうと思えば飲めるわけです。病院を出て近くのコンビニに飛び込んで。はい。これまでの一か月が水の泡。それでは困るので、一か月のうちに色んなプログラムによって学習があります。抗酒剤もお勧めしますし、飲酒欲求が減る内服薬もあります。

ただ患者さんのなかの飲みたい欲求は絶大。なにせ脳がアルコールを要求するのですから。飲酒欲求は脳が指令を出します。こころの弱さではありません。しかし、治療法は限られている。
事前に抗酒剤を飲んでおくか(アルコールが体内に入ると酒を飲めない人が飲んだ時のような酷い症状がでます)。ただし効果は一日です。毎朝飲む必要があります。
もしくは飲酒欲求を抑える薬を服用します。これもまた本人が管理して服用するので、拒薬しようとすれば出来ます。
なので、本人の「断酒への決意」が必要なわけです。一歩外に出れば誘惑だらけなので。

入院にまでせまられているということは、底つき体験もしていることでしょう。しかし、この後に及んでも「入院なんかしない! 飲んで死ねれば本望だ!」という人がいます。
隣で奥さんや子供さんがオロオロしたり怒りだしたりします。当人にもですが、家族にも説明が必要です。
アルコール依存症治療は、この先一生アルコールを飲まないと「断酒宣言」した人でないと効果が望めないと。そこが出発点で、先はとても困難な道なのですけどね。

自宅で家族とさんざん話し合った(言い合った)方なら、渋々であっても入院に同意する覚悟で来院していますが、そうでない人は仕切り直しです。

ご家族の側にも教育と頼れる場所が必要なので、自助会(断酒会)への参加をお勧めして資料を渡します。家族が共依存ってことも多いので。

面談時間は記録時間含めて一時間。それ以内で一応の結論を出します。次の面談が待っていますし。
次にまた面談で会えるか、もう二度と会うこともないのかは、神のみぞ知るって感じでしょう。

さて、患者さんたちが面談室を出ていきました。私には先ほどから気になっていたことがあります。患者さんの座っていた椅子をチェックします。
やっぱり。失禁していました。もう身体もボロボロ。なのに、アルコールと心中したいと思うくらい、その魔力に取りつかれているみたいでした。

アルコールは身体もこころも蝕むんです。依存症になってしまったら、もう二度と昔のように楽しく飲むことは出来ない。それが、寛解はあっても治癒はない理由です。



よろしければサポートをお願いします。活動費用とさせて頂きます。