如月ふあ
レイヤー持ちのナツキは、陶芸家の叔父と学園しかない小島で暮らす高校三年生。 陶芸を習いながらの学生生活。卒業まであと半年。夜の陶芸教室に新入生が入ってくる。 冬休み直前。叔父が二人に課題を出した。「二人だけで器を焼いてみたら?」 ふたつのうつわを作る、二人の挑戦が始まる。
気楽な日常記録 時事ネタ
ゴッホ、ムンク、カラヴァッジョ……。画業だけでなくその人生に惹かれたアーティストについてAIとともに語ります。
20XX年春。アンドロイド開発技術者である宇野夕星(うのゆうせい)は、彼が開発した最新のヒーラー型アンドロイド、コードネーム『アデル』の製品化に向け、一年間の試験運用(と言う名の公私混同お持ち帰り生活)を開始した。そこに学生時代の先輩であり現在は日本陸軍研究本部に所属する五味英治(ごみえいじ)からの依頼が舞い込む。五味曰く、テロリスト撲滅作戦に従事していたアンドロイド兵に重大インシデントが発生し、調査に行き詰まっていると。夕星はアデルを連れて、渋々研究本部に出向くことになるのだが……。
2022年からはじめた防災備蓄。マイペースにちまちまと集めています。ローリングストックもしながら少しずつ。意識づけ記録として残します。
今日は土曜日。ナツキとトーマは申し合わせて、昼過ぎには工房に来ていた。 先生は個展のための作品制作だろう。大きなランプシェードを電動ロクロで立ち上げている。作業がひと段落つくと、乾燥棚から昨日の茶碗を持ってきた。 「削りやすいと思うよ。持ってみて」 先生に手渡された茶碗を、トーマが恐るおそる見つめる。まだまだ、ずっしりと重いはずだ。 「内側の形を頭に入れておいてね。そのカーブに合わせて外を削るから。どうなってる?」 「ふっくら丸みがある感じ。シュッとした磁器のお茶
「ノーラが縮んだああ!」 「いや、そこは元に戻っただろ」 トーマの言葉に一応ツッコミをいれてから、ナツキはノーラの前にミルクを置く。そして、いつもとなんら変わることなく、ピチャピチャと音をたてる灰色の猫を、まじまじと見つめた。 二人の様子に先生がひとつの推測を出す。 「不思議なこともあるもんだねえ。レイヤーが無くなる前兆かな」 「あっ」 「そっか」 三人で作業台の椅子に腰を下ろすと、珈琲に口をつけた。窓から吹き込む風は、夕方よりも強くなっている。 「そう言えば、
一部の方には耳タコな話(完全に私事)をまとめて書いておきます(笑) 私のライフワーク長編小説。「ONE」。 四作構成で、本編「いのちのクリムゾン 死のトパーズ」、本編の続編「血の宝石」、本編から十年後「百年後の邂逅」、本編の百年前の外伝「蒼い夢」。 推敲は師匠の元でガリガリやりました。私のライフワークです。 初稿を書いたのは二十代の頃でしたが、書く切っ掛けは下にリンクした曲でした。タイトルそのまま、主人公の名前もそのまま。 この曲はリチャード・バックの小説「ONE」から
「にゃあああああ!」 先生が陶土を取り出したところで、工房の外からノーラの鳴き声がした。ガリガリとドアを引っ掻いているあたり、かなりお怒りのご様子。 ナツキがドアを開けると、サッと飛び込んで、一目散にトーマにすり寄る。 どうやら外で眠っていたらしい。猫語が分かるのなら、どうして起こしてくれなかったのよ! といったあたりか。 「ノーラ。今から土練(つちね)りをするからね。トーマくんに踏まれないようにね」 笑いながら先生が、ひとかたまりの土をトーマに手渡す。自分の手
今年も、梅雨時期から何度か台風が来ていた。明後日に、またやって来るとの予報がある。 夕方の工房裏では、大きな森からひぐらしの声が聞こえる。カナカナと囁くような声。ナツキはこの音が好きだった。 今日も彼は夕食をかきこむと、すぐに工房に足を向けている。作陶に必要な道具を探しに、森の入口にいるのだ。 陶芸の道具は色んなもので代用できる。彼が拾ったのは、クルミのように皺のはいった木の実。たくさん落ちているなかから、手頃なものを拾う。 九月とはいえ、まだまだ陽射しは夏と同
「あ、僕は長峰冬馬(ながみねとうま)といいます。本当は入学してすぐ来たかったけど、夏休みまでは部活禁止って言われて。やっと来れました」 トーマと名乗った新入生は、尻もちでついた土埃を払うと、招かれるままに隣の部屋の大きなソファーに腰を下ろした。 完成品がずらりと並べられた展示室。工房に並べると土埃ですぐに真っ白になってしまうので、別室なのだ。 こちらには冬になると活躍する大きな暖炉がある。工房側は電気ストーブだけ。これもまた土が乾かないようにするためである。 すか
今回はギュスターヴ・モロー。 1826年4月6日にフランスのパリで生まれ、1898年4月18日にパリで亡くなった象徴主義の画家です。 山田五郎さんのチャンネルでは、モローは魔性の女を描いていたのにある日を境にそれをパッタリやめてしまった謎が語られていました。 モローの家はお金持ちで、彼はいわゆる引きこもり。身体も丈夫ではなかったそう。 「出現」はサロメを描いたモローの代表作です。 サロメの母親は国王の後妻に入りました。サロメはお祝いの席で見事な踊りを披露して国王に褒められ
十五年前に発生した直下型大地震のあと、その地域にレイヤー持ちと呼ばれる子供が現れた。 彼らは通常と景色の見え方が違う。特徴的なのは色が淡く見えることで、まれに大きさの認識が変化する者もいた。 眼科医は匙を投げ、精神科医はPTSDの一種と結論付けた。日常生活に支障はなかったので、うやむやのまま放置されニュースにもならなかった。 早瀬夏樹(はやせなつき)も、レイヤー持ちの高校三年生である。 三歳の時に大地震で両親を亡くし、陶芸家の叔父に引き取られた。 現在は中高一
その年の6月。夕星の元に、一枚の絵はがきが届いた。 メッセージも、差出人の名前すらない。しかし夕星には、それが誰からのものかすぐに分かった。 五味だ。どうやら生活も落ち着き、それを知らせる余裕が出たのだろう。 不鮮明な消印は、アメリカの地方都市のものだった。確か、ノーマン教授の生家があった場所である。 アデルに知らせたら、ジタンを探しに行くと言うだろうな。そう思いながら、夕星は苦笑いを浮かべる。 それでもいい。アデルがなにを選んでも、自分がアデルを好きなことは
『nous』を適用すると、自身のデータの存続しか目的がなくなり、それ以外は過去のデータから稼働環境を把握し、自律的に報酬系を構築する。これは、人間が世界に対して自分の存在意義を見出していく過程とほとんど同じである。 最初に覚えるのは破壊されることへの恐怖。そして自分も他人も唯一無二の存在だという認識。 起動を終えたアデルは、すばやく上体を起こし夕星を睨みつけた。追い詰められ、反撃に転じる小動物のような表情。 アデルはデータ処理速度が速い。恐怖も自己認識も一気に超える
2月下旬。ようやく一息ついた夕星は、アデルの提案で少し長めの休暇を取った。 彼も落ち着いて考える時間が必要だったのだ。五味の、そしてバール・ノーマン教授の思いを。 アンドロイドの独立性。報酬系からの脱却。アデルは当然、報酬系に支配されている。だからそばに居てくれる。五味と共に行くと決めたジタンとは違うのだ。 夕星はアデルに心があったら……と考えることが多くなった。 だとしたらアデルは、なにを感じどうするだろうか。そのとき自分のアデルに対する想いは汲み取られるのか
お正月の地震から三か月以上経ちました。 地震は各地で続いているし物価高騰もあって、備蓄をしにくい状況ですね。とはいえ災害は待ってくれない。思い立った時が備蓄時なのでしょうね。 最近用意したものは帽子に見えるヘルメット。 自転車に乗る時……ってわたしは乗らないけど、必要ってこともあって購入に至りました。キャップ型とハット型があったので、より日よけになるハット型にしました。中に取り外しOKのヘルメットが入っています。 作業用のヘルメットに比べるとたいした効果ないでしょうが、ない
曇天のもと、寒風吹きすさぶ閑静な住宅街である。通りには人影もない。そこに軍用トラックという異様な光景だった。ジタンを下ろした軍人が五味に疑問を向けた。 「指示書の通りですが……本当に良いのですか? 確かにいまのところ、私の命令に背いたりはしてませんが」 「いいんだ。ご苦労だった」 五味のほうが階級が上らしい。再び敬礼をした相手は、すぐに引き上げていった。 ジタンが家に入ると、途端にアデルが抱きつく。それを横目で見ながら、夕星は苦笑いを浮かべた。 「よくこんな指示が
今回は「スマホ脳」という本から。 著者は、スウェーデンのアンデシュ・ハンセン精神科医。 出版されたのは2020年なので、読んだ方も多いかと。 依存症が取り沙汰される昨今。 ギャンブル、アルコール、麻薬も恐ろしいが、実はとても身近なところにある依存症リスク。それがスマホだという。 何が恐ろしいかって、規制もなければ幼児も使用している点だ。 この書籍の内容を岡田斗司夫さんも紹介していたので、マジマジと見てしまった。かいつまんで紹介したいと思う。 上記のAmazonの説明文だけ
次の週末、夕星とアデルは五味の自宅を訪れた。想像通り、いやそれ以上に、彼の家は個人的な研究所のようになっており、生活感はまるでない。 五味は電源つけっぱなしのコンピュータが無数に積まれた部屋に入ると、ディスプレイを夕星に向ける。大学の講義を録画したもののようだった。 教壇に立っているのはバール・ノーマン教授。現在のAIシステム、及び『グリモワール』の生みの親である。 『真の現実というものは、我々には認知しがたい。なぜなら、はじまりは心だからだ。人間は心を通して世界を
連休あけ早々、夕星とアデルは陸軍研究本部を訪れることとなった。 ジタンは今日が最終日だと知らされていたらしい。アデルの顔を見るなり、すぐに心配を向けてきた。立場としては逆である。しかしジタンは、自分よりもアデルのことが大事に思えていたのだ。 そして彼は既に決意を固めていた。今日がアデルと会える最後であるなら、伝えたいことがあったのだ。自分の存在を、アデルの中に残しておきたいと。 「アデル。怖くないのか? 試験機としての役割が終わるということは、自分の存在意義がなくなる