景色がぶれて見え始めたのはいつからだろうか。
 右眼では現実が見えて左眼では森と枝に繋がれたロープが吊り主を探してるかのように揺れている。
 どちらが現実かは分からなくなってきた。
 夢と現実の違いなんて最初からなかったのかもしれない。
 ふとした瞬間に頭の中にささやき声が響く。
「罪の重さを考えてみろ」
「ここいらで諦めたらどうなんだ」
 歩いているときも寝ているときも声は響いてくる。
 気が狂いそうだ。

 毎晩見る夢がある。
 箱の中に閉じ込められる夢だ。
 箱は無数にあって透明な箱もあれば中身が見えないものもある。
 箱の中には必ずナイフが置かれている。
 
 ある箱の中は物であふれていた。
 自分が欲しかったものが必ず出てきて少女は喜んだ。
 みじめな男は何もない箱と物であふれている箱を比べ絶望し、ナイフを突き立てる。
 少女は物であふれた箱に押しつぶされて死ぬ。
 死んだことに気づいた人はいなかった。それくらい興味もわかなくなる人もいる。

 箱の中に二人の男女がいた。
 ここから出ていきたいと壁を殴り続けいつしか箱の上が崩れた。
 二人は嬉しそうに箱の上を走り続けたくさんの人間がその姿を見ては壁を壊そうと手元に現れた金づちをふるい続けるが壊れない。
 そのうち諦めて忘れることにした。
 男女は走ったがどこまでいっても白い空間からは逃げられず自分はもっと大きい箱の中にいると気づき元の箱の中に戻り絶望した。

 2つの箱があった。
 箱には鏡なんてなく自分の姿がわからない。
 猫のステップが戯曲を書いたかのような有り得ない偶然で箱の中の女は同じ動きをし、いつしか2つの箱は鏡だと思い込むようになった。
 片方は絶世の美女であり、もう片方は醜悪な外見をしていた。
 一人はこんな姿では生きていけないと泣いた。
 もう一人はこの姿を誰にも見てもらえないと泣いた。
 二人は絶望しナイフをもって自死を選ぶ。死の瞬間、違う動きをするお互いが見える。
 その姿を見ながら二人は血を流して死ぬ。

 当然俺の姿も見える。
 すべてを見ていた。
 男も女も悲惨な死に方をした人たちを。

 俺の箱には何もなかった。
 当たり前のように置かれているナイフ。
 俺は箱の中から出られないと悟る。
 ただじっと壁にもたれながらナイフを見続ける。
 そして首に当てたナイフは鮮血をまき散らしながら命を奪った。
 

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