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私と野球とアライバの話

私が野球の本当の面白さに気付いたのは、たぶん大学生くらいの頃だったと思います。元中日ドラゴンズの荒木さんと井端さん、通称アライバの華麗なプレーに衝撃を受けたのがきっかけです。アライバは守っては二遊間、打っては1・2番という球史に残る名コンビでした。私は狂ったように二人のことを調べたり、オフィシャルブログを読んだり、試合の動画やインタビュー記事を何年分も遡って漁ったりとどっぷりハマっていき、それまであまり興味のなかった守備や走塁の重要さを知りました。

「相手の考えがわかる」と口を揃えるほど息の合った二人でしたが、私が本当にすごいなと思ったのは荒木選手があるラジオ番組(だったかな?)で話していた言葉です。

とある試合。1番打者の荒木選手がヒットで出塁し一塁に。井端選手の代わりに2番を打っていた別の選手がバントをしようとしましたが、2球ファール。その後ヒッティングに切り替えるも、ピッチャーの球が速くて前に飛ばず、ファールが続いていました。毎回ピッチャーが投げる度に荒木選手はスタートを切ります。バッターはランナーを進めようと右方向を狙い、なんとかファールで粘っていたわけですが、荒木さんは番組の中でその場面を振り返り、「井端さんなら三振していた」と仰ったんです。
ここでのチームの目的は1塁のランナーを2塁に進めること。井端さんならば「荒木のこのスタートなら盗塁で2塁に行けるだろう」と打席で瞬時に判断できるから、あの場面はボールを打ち返さず、荒木選手に盗塁させるためにわざと空振りしていただろう、というわけです。

ちょっとマニアックすぎて野球に詳しくない方にはなんのことやらという感じですよね。しかも私の説明もわかりにくい。すみません。とにかく、この言葉を聞いたときに「すげー!!!」「なんだこのコンビ!!!」「野球って奥が深い!!!」とめちゃくちゃ感動したことを今でもよく覚えています。

そんなアライバにハマり始めてから数年後、私はニートになりました。

(私の暗黒ニート期についてはこちらを参照していただければ…)

人生のどん底にいた私を救ってくれたのは、これまたアライバでした。

当然ながら、ニートとなった私に家族は冷たかったです。食事の時間なんてもう地獄でした。家族団欒というのは夢のような話で、いつも食卓はしんと静まり返り、殺伐としていました。自分の部屋で食事したいと思いましたが、さすがにそこまで引きこもることは許してもらえず、毎日の夕食の時間が苦痛でたまりませんでした。

ある日のこと。食事中、いつものようにテレビでホークスの試合中継を流していました。父は大の野球ファンで、ホークスを応援しています。ですが、私はアライバが好き。そこで、勇気を出して言ってみたんです。「少しでいいから中日ドラゴンズの試合が観たい」と。ニートのくせに厚かましい限りですが、ホークスの中継がCMに入っている間だけ、チャンネルを替えていいというお許しをもらいました。静まり返った食卓に会話が戻った瞬間でした。それから「お前、荒木のどこが好きなんだ?」とか「やっぱり井端の守備は上手いなぁ」とか、父が話を振ってくるようになりました。野球だけが、あのときの私が父と会話をすることができる唯一の話題でした。殺伐としていた親子の仲を、野球という共通の趣味がギリギリ繋いでくれていたのです。(試合のない月曜日はマジで地獄でしたが)

夕食時の気まずさを払拭してくれたことで、私はアライバとプロ野球に深く感謝し、ますます没頭していくようになりました。もはや依存や執着に近い感覚でした。
荒木選手のカード(サイン入りの光ってるやつ)が当たるまでプロ野球チップスを食い漁りました。(そして太った)
毎試合、中継を録画して、後から荒木選手と井端選手の守備機会を見返していました。何度も巻き戻して観ました。
さらに、毎日のように動画を漁っては、アライバファインプレー集を観たり、荒木選手の神走塁集を観たり、荒木さんが年末に出ているローカル番組を探したりしているうちに、次第に他の選手や球団にもどんどん詳しくなっていきました。幼稚園児だった頃に福岡ドームで迷子になったトラウマもあってか、それまではあまり球場にいい印象を抱いていませんでしたが、ニートを脱した頃には現地まで足を運んで応援するようになりました。セ・リーグ球団が福岡に来てくれる交流戦の時期が大好きでした。とにかく毎日のように野球を楽しんでいました。

アライバとプロ野球は、私の生活を楽しいものへと変えてくれただけではありません。作家デビューを目指して投稿し続けていた日々の中、ふと「なにか野球をモチーフにした作品を書こうかな」と思い立ったことをきっかけに執筆した『博多豚骨ラーメンズ』が2013年、電撃大賞を受賞しました。作品の主人公はセカンドの背番号2。アライバという存在がなければ、私はこうして小説家になれなかったはずです。二人は私にとって、そりゃもう神様のような存在でした。


ところが同年、大変ショックな出来事が起こります。井端さんが巨人へ移籍してしまうのです。事実上のアライバの解散。もう涙が止まりませんでした。(ショックのあまり、(応援していたトニ・ブランコ選手やソト投手、ソーサ投手の移籍もあり)ドラゴンズからベイスターズに鞍替えするほどでした)

もう二度と、あの青いユニフォームを着た背番号「2」と「6」の並びは見られないのだ。
そのことが本当に悲しくて悲しくて、心にぽっかり穴が空いてしまったかのようでした。





あれから7年。




見れた!!!!!!
まさかのYouTubeで見れた!!
しかもなんか井端さんしれっと青いユニフォーム着とる!!!

ああ……やばい……。
この動き3000000時間くらいずっと眺めていたい……。

この流れるような美しいゲッツー……芸術だ……。
井端さんのYouTubeチャンネルの初のゲストが荒木さんって、もう最高すぎませんか。わかってらっしゃる。
「(女性を取り込みたいなら)浅尾の方がよかったんじゃ」と仰る荒木さんがめっちゃ荒木さんらしくて、「荒木さんのそういうところ大好き~~!!」って感じですよもう。
7年ぶりでも40過ぎても二人ともお変わりないです。素敵です。神々しさすら感じる。荒木さん本当にかっこいい。相変わらずスタイルがいい。井端さんまじ上手い。捕球の「間」がやばい。
まさか動いている、しかも守備をする二人のお姿が再び見られるとは思いませんでした。夢のようです。
バルディリス選手のゲッツー崩しにフェイントかけた話、めっちゃ笑ってしまった。


これだけでも十分ありがたいというのに、




まさかこんな本が出るなんて!!!!!!

ありがとう!!!!!ありがとうございます版元さん!!
企画してくださった方も本当にありがとうございます!!
なんなんですか今年は……アライバ復活イヤーなんですかね?
ほんと嬉しすぎます……泣いてもいいかな?

……というわけで、クソ長い前置きはここまでにして、今回の記事ではこちらのアライバ共著の感想を語りたいと思います。
本題を忘れて気持ち悪いほど語ってしまい申し訳ありません。
なるべくネタバレしないよう心掛けたいと思いますが、自信ありません。ネタバレNGの方はご注意ください!

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『アライバの鉄則』、一日かけてゆっくり読みました。
ちょっと読んでは本を閉じ、「はあ~~~」と深呼吸をして、また本を開いて読む。その繰り返しで、読み終えるまでかなり時間がかかってしまいました。噛みしめるように読みました。
ところどころ涙が滲んでしまうところや、クスッと笑ってしまうところもあったり。個別の章はそれぞれお二人の性格が現れていて、その違いも面白かったり。それでいて共通している考え方もあって、長年のコンビとして積み重ねてきたものが感じられたり。
章末の対談は本当に楽しそうで、目を通しているだけで口元が緩んでニヤニヤしてしまいました。二人の笑顔の写真もすごく素敵です。

アライバといえば、荒木さんが厳しいゴロの打球を捕ってから井端さんにグラブトス、走ってきた井端さんがボールをキャッチして一塁へ送球――4-6-3で1つのアウトを取るという「アライバ」プレーが有名ですので、「守備のコンビ」というイメージが強いかと思います。
ですが、本著を読むと、守備だけでなく打撃や走塁においても二人のコンビプレーが光っていたことを改めて感じさせられました。ヒットエンドランで本来なら1・3塁になるところを2・3塁にできてしまうのは、荒木さんの走塁技術と、その力を十分に理解している井端さんだからこそなんでしょうね。すごすぎます。

本著(動画でも)の中で挙がっていたヤクルト戦でのヘッドスライディング、私もよく覚えています。井端さんのガッツポーズが印象的でした。荒木さんが三塁回ってからヘッスラまでスローモーションに見える気持ち、よくわかります。
走る荒木さんって、まるで三冠馬のサラブレッドのように美しいんですよね。守っている姿も好きですが、走塁中の荒木さんも素敵だと個人的に思います。本当に美しいんです。ヘッスラする姿も大好きです。ファンとしては怪我しないか心配になりますが(当時はコリジョンルールもなかったですし)、そこを荒木さんは上手いこと回り込んでベースをタッチするんです。すごいです。
(※私が前のブログのタイトルを「ヘッスラ日記」にしていたのは、荒木さんのヘッスラが好きだから、という理由もありました)

ショート、セカンドと個別に考えれば、二人よりすごい選手はそりゃあいるのかもしれません。ですが、二遊間で1・2番と考えれば、この二人ほどのコンビを超えられる存在はなかなか出てこないんじゃなかろうかと、そんな風に思ってしまう一冊でした。
とにかく内容が濃密です。野球ファンの方にはぜひ買って読んでいただきたいです。お二人の話はもちろんですが、現役選手も引退した選手も、十二球団いろんな選手の小話が聞けますので、絶対楽しいです。おすすめです。私は二冊買いましたが、もう一冊ほしくなるほどでした。
野球をされている方、二遊間を守っている方にもぜひ読んでいただきたいです。「はっ」とすることがたくさん書かれているんじゃないかと思います。

いつか二人で青いユニフォームを着て、コーチとして第二のアライバを育ててくれたらいいな。
なんてことを夢見ながら、遠くない未来に「アライバの鉄則」第二弾が出版されることを願っております。

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興奮冷めやらぬで、まだまだ書きたいことがたくさんあるのですが、これ以上はネタバレになってしまいそうなのでこの辺で。
ここからはちょっとだけ、自分と野球の話をさせていただければと思います。

2018年あたりから、野球への熱が冷めつつありました。
それまで私は毎日のように野球中継を観て、さらにスポーツニュースを観て、と18時以降の時間をすべてプロ野球に費やしていました。現地に足を運ぶことも多かったです。
それなのに、2018年以降はなんとなく、野球から心が離れているような気がしていました。毎日観ていた試合も、二日に一回、一週間に一回、一か月に一回と、どんどん減っていきました。知らない選手の名前を見かけることも増えました。
どうしたんだろう?野球が好きじゃなくなったのかな?と寂しい気分になることもありました。

おそらくその主な理由は、引っ越しをきっかけに自分のメンタルに大きな変化があり、仕事に関するストレスが激減したことじゃないかな、と思っていました。
やっぱり作家という仕事はストレスを抱えやすいんでしょうかね。ここだけの話、私もデビュー翌年にエコー検査で異常が見つかり(たいした病気ではありませんが)三か月に一回に通院しておりました。まあ、2019年にはほぼ完治してしまいましたが(笑) 病は気から、の典型です。

病気も治るくらいタフなメンタルを手に入れた結果、野球に執着・依存する必要がなくなったんでしょうね。先述の通り、それまでは病的なまでに依存していたので。野球にのめり込むことでストレスを発散していたけど、だんだんその必要もなくなってきた。だから、以前のように野球に熱を上げることもなくなったのではないか。
自分ではそう分析していました。

ですが、今回『アライバの鉄則』を読んで、もしかしたらと思うことがあります。
高校生の頃の話ですが、飼い犬の死を経験しました。当時の私はどんどん死に近付いていく犬の姿を直視できませんでした。死ぬ前の数週間、弱った犬の頭を撫でてやることもしませんでした。なるべく視界に入れないようにしていました。犬が死んでしまうことを認めたくなかったし、彼女を失ったときに自分が傷ついてしまわないように、心の距離を取ろうとしていたんだと思います。今思えば、最期にもっと優しくしてあげればよかったと、ものすごく後悔しています。

2018年は、荒木さんの選手としての最後の年でした。2019年からコーチとなり、背番号も「2」から「88」になりました。もしかしたら、飼い犬の経験と同じように、私は無意識のうちに荒木さんの引退を察して野球から距離を取ろうとしたのかもしれません。アライバが解散して、井端さんが引退して、次は荒木さんが引退。とうとうきてしまったこの一時代の終わりを受け入れられなくて、背番号「2」以外を着た荒木さんの姿を視界に入れたくなくて、野球自体を観ないようにしていたのかもしれません。
そして、また今になって後悔しています。「晩年の姿も、引退試合のときの姿も、しっかり目に焼き付けておけばよかった」と。

ですが、今回『アライバの鉄則』のおかげで、私の心にもようやく踏ん切りがついたような気がします。こうして本に残してくれたおかげで、アライバは引退してもずっとアライバなんだと思えて、ものすごく嬉しかったです。今後のプロ野球や後進の育成について語るお二人を見ていると、これからどんな活躍をされるのか、引退後も楽しみになってきました。もう目を逸らさなくてもいい、しっかり見ていきたい、そう思うことができました。

井端さんにはYouTubeでいつでも会えますからね。すごい時代ですね。ありがたいです、イバTV。これからも動画楽しみにしております。
そして、これからはコーチとして働いている荒木さんを見に球場に行ってみようかな、と思いました。今度こそ後悔しないよう、背番号「88」の姿をしっかり目に焼き付けたいです。

人生を変えてくれた荒木さんと井端さん、アライバのお二人には感謝してもしきれません。プロ野球選手になってくれて、かっこいいプレーをたくさん見せてくれて、野球の面白さを教えてくれて、本当にありがとうございました。
これからも大好きです。ずっと応援しています。


最後にもう一度言わせてください。
『アライバの鉄則』第二弾、お待ちしております!!


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