見出し画像

ピエロ



あぁ。
ここは、君の部屋か。
えーと。
今日で何日目かな…。

薄暗く狭いベッドルームで、ふと目を覚ます。
とりあえず生きてはいるみたいだな。

隣にいる君に背を向けたまま、起き上がってメガネをかけた。

んー。
まだいるのか。あいつ。

俯き髪をかきあげながら、視界の端に映るあいつを見る。

昨日から、見えてはいけないものが。
見えるんだよ。

あいつは手招きして僕を誘う。
薄ら笑いを浮かべて。

なんだか無性にイラッとして、近寄ってみた。

「なぁ。お前…誰?」

もちろん返事はない。

「出て行ってくれない?今からヤるんだけど。」

赤く、丸く、大きい鼻を弾こうとしたけど、もちろん触れるはずもなく。

ずっとそこにいるピエロは表情ひとつ変えず。薄ら笑いで。瞬きもせず。ただずっと僕を見て手招きをする。


「ねぇ。こいつどうにかしてよ。」

って、笑いながら君に頼んでみた。

返事がないから、振り返ってみると。

君はもっと見てはいけないものを見ていて。
しかも誘いに乗りそうになっていて。

それを見て僕は笑いが止まらなくなった。

君は誘いに乗るのかな。 
あれ?
思いとどまってる?
仕方ないなぁ。


「行ってしまえよ」って

「踊ってこいよ」って

耳元で囁いて。


彼女を見届けると、音楽が鳴り響き始めた。
古い古い遊園地を思わせる曲。
そう。『Ghost Parade』の様な。


僕は服を着る。


ピエロを置いたままに。

君を置いたままに。

「メリーゴーランドは、ご自由にお乗り下さい。」

そう言い残して部屋を後にしたんだけど。


ついてくるんだよ。



ピエロが。



足元はフラフラでさ

もう笑いが止まらないよね。


なんだったんだろうね

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?