大学入試に期待される波及効果:共通テストR7年度試作問題より

前回の投稿では、共通テスト〔リーディング〕の問題の波及効果を考えました。テストはどんなものであれ、それを受ける者に適切なメッセージを発するべきものと考えます。今回は前回投稿の続きとして、共通テスト〔リーディング〕の波及効果をテーマとして、令和7年度入試からの出題予定として公開されている試作問題のことを考えてみます。

2技能のみの現在の共通テスト英語

現在の大学入試共通テストではReadingとListeningの2技能しか出題されていません。以前のセンター試験では発音アクセント問題や文法並べ替え問題があり、もちろんこれらをもってしてSpeakingとWritingを測っているなどとは言えるはずもありませんが、それでもマークシート形式の試験という制約の中で、なんとか多技能の要素を含めようという意図が感じられたと考えています。

センター試験から現在の共通テストに変わり、従来の〔筆記〕が〔リーディング〕となった背景には、間違いなく外部4技能試験の導入が前提となっていました。SpeakingとWritingは外部試験に委ね、共通テストではReadingとListeningに特化する、という狙いだったはずです。であるとするなら、外部4技能試験の導入を断念した今でも、当初その導入を前提に考えた共通テスト〔リーディング〕の問題構成が変わらないのはおかしいのではないか、といったことを前回の投稿で書きました。

令和7年度試験の試作問題

外部4技能試験の導入断念がありながらも共通テスト〔リーディング〕の問題構成は変わりませんでしたが、大学入試センターも何も考えていないというわけではなさそうです。

大学入試センターでは、令和7年度入試(2025年度、現在の高校2年生が受験する入試)からの変更を、試作問題という形で公表しています。

現在の高校2年生からが新しい学習指導要領下で高校の学習をしてきた最初の学年となり、新学習指導要領の内容に合わせた形での出題ということです。4技能試験との関係での変更ではありませんが、現行の共通テストの〔リーディング〕がもつ問題点に対して、多少なりとも変化が見られます。

リーディング一辺倒から「ライティングの要素」を含んだ試験へ

ここでは試作問題の中で第B問として公表されている問題を取り上げます。実際の問題は上記のリンクからご覧ください。

令和7年度試作問題 第B問

第B問では、生徒が書いたエッセイライティングに教師がコメントをしているという設定です。問題をよく見ると、以下のようなエッセイライティングにおいて必要な事柄を受験生が押さえているかを問う問題であることがわかります。

  • Paragraph writingの知識・技能として、パラグラフの内容を適切に表すトピックセンテンスを考えることができるか

  • Paragraph writingの知識・技能として、coherenceやcohesionを高めるためのつなぎ言葉の使用や、必要な情報を考えることができるか

  • Multi-paragraph essayを書くにあたって必要な、各段落の内容を踏まえたconclusionを考えることができるか

もちろん、記述問題ではないのでwritingの力を直接測ることはできていません。しかし、この試作問題第B問は、新学習指導要領の、特に「論理・表現」の科目における指導内容を踏まえた作問であることが伝わってきます。

〔リーディング〕のテストと言えるのか、という問題はありますが、私はこの試作問題は、波及効果の観点から言えば良い試作問題だと思います。

波及効果の観点から

この第B問で正解できるような力をつけさせるためには、英語の授業でparagraph writingやmulti-paragraph essayの勘所を押さえる必要があります。こういう問題が共通テストで出題されることによって、そういったessay writingに必要不可欠な〔知識・技能〕が日本全国の大学受験生に浸透していくことが期待されます。

もちろん、そもそもこの変更は新学習指導要領の内容に応じた変更であり、本来であれば、日本全国の高校生が学ぶ内容は、共通テストの出題内容ではなく、学習指導要領の中身によって変わっていくものです。当然ながら、すでに新学習指導要領下での検定教科書では、この第B問に正解するために必要なessay writingの指導事項が盛り込まれ、それを使って授業を行っている高校生は、すでにそれらの学習内容に触れています。

しかし実際には、学習指導要領に盛り込まれているというだけでは不十分であり、やはり大学入試(特にほぼ全ての大学入学希望者が受験する共通テスト)での出題が、多大な影響力を持ちます。

要因の一つとして、公立高校以外の英語教育現場では、必ずしも学習指導要領や検定教科書の内容に忠実に授業が行われているわけではありません。私学にはある程度の独自性が担保されており、学習指導要領や検定教科書の改訂に、必ずしも100%応じて授業を行っていないところもあります。また、塾や予備校だったり、入試問題集を扱う出版業界は、学習指導要領の内容をどこまで忠実に踏まえているでしょうか。私学や塾・予備校、出版業界などは、学習指導要領の改訂よりも入試問題の変更に敏感に反応します。

というわけで、このような大学入試問題の出題形式の変更は、受験生・高校生の学習に大きな影響を持ちます。もちろん、この共通テストの問題に対応できるようにするためだけに、英語教育の現場でessay writingの指導が急激に増えるということはないでしょう。しかし、対策問題などを通じて、高校生がparagraph writingやessay writingの「書き方」を学ぶ機会は増えるでしょう。

記述式ではなくマークシート方式という制約の中で、なんとかwritingの要素をテスト構成に盛り込もうとしたこの試作問題における変更案を、私は支持します。

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