AIでrewriteした英文で読解方略指導を③

前回の投稿で、教科書本文をAIを使って易しい文章に書き換えた手順を紹介しました。今回は、そのrewriteした英文を実際に授業でどのように使ったかをご紹介します。

今回は、rewriteした英文をこのようなプリントにして生徒に読ませました。

この文章(のrewrite前のオリジナル文章)は本課の後半(section 6からsection 9)にあたります。すでに前半を読み終えた段階だったので、この文章はその続きということですんなりと接続できそうでした。よって、今回はこの文章の提示前にoral introductionなどの導入は特に行っていません。

この文章を「初見」として読ませるにあたって、2つの指示を与えました。

  1. Divide the passage into four sections. Indicate paragraph breaks with slashes. 

  2. Guess the meaning of underlined words. 

どちらもトップダウンの読解ストラテジー使用を意識した指示です。

段落分け

今回4つのセクションをまとめてrewriteしたので、それらを段落分けせずに提示し、生徒に段落の切れ目を考えさせることにしました。段落分けを考えさせることで、文章の大筋を捉えながら読むこと、すなわちトップダウンの読み方を実践させることにつながると考えました。

今回は元の文章が4つのセクションなので必然的に4段落に分かれるという「答え」が定まったものでしたが、必ずしも正しい切れ目が一つに定まるものではないかと思います。よって、正しい答えよりも、文章の概略と意味のまとまりを意識しながら読む経験に意味がある、と生徒に伝えました。

読み終えた後、段落の切れ目について、なぜそこで切れると思ったのかなどを簡単に話し合いながら、文章の概要と構成を確認しました。

未知語の推測

もう一つのタスクとして、下線を施した3つの単語の意味を推測するように指示しました。これら3つの単語は、この時点では多くの生徒にとって未知語であろうと判断し、また文脈や既存知識の活用でそれなりに推測ができそうであると判断したものを選んでいます。

実際、生徒たちの推測はかなり的を射ているものが多く、完全に意味を言い当てていなくとも、考え方、意味の推測の仕方は思いの外よく出来ている印象でした。

例えば3つ目のaccountsは「記述、報告」のような意味ですが、前文の "people traveled even more and wrote down what they saw" を受けての "these travel accounts" と考えればある程度の推測はつくと考えていました。実際生徒たちはそのように推測し、「記述、報告」の意味までは辿り着かずとも、「情報」のような意味を推測した生徒には考え方は合っていると伝えました。

また2つ目のdistortは「歪める」ですが、これはメルカトル図法の話であることが分かれば、既存知識を活用して推測が可能であることを話しました。実際にそのように考えた生徒も多く、「歪める」までは言い当てられずとも、「拡大する」のような意味と推測していました。

まとめ

生徒にとって難しめの教科書を扱っている場合、教科書本文を初見で扱う際に概略を掴ませたり段落構成に目を向けさせたりといったトップダウンの読解指導は厳しいものがあります。また、進出語句が多すぎるため、文脈から未知語の意味を推測するといったこともさせることができません。

では、こうしたトップダウンの読み方を実践させるために別途副読本などを使って授業を行うかというと、授業時数と進度の都合上、それも難しかったりします。そもそも難しい教科書を扱っている場合、それなりに理解の補助としての説明などにも時間を割く必要があり、進度に余裕があるケースは少ないでしょう。

今回試してみたように、教科書本文自体を易しくrewriteしたものを扱えば、授業進度を大きく損ねることなくトップダウンの読解方略指導ができます。

今回は本課の後半ということで、そのまま前半の文章の続きということで読ませることができました。従ってoral introductionを挟む必要もないと判断しましたし、むしろこのrewrite文を導入無しで生徒自身が初見で読むことで、そのこと自体が教科書本文への導入となるように授業を設計しました。

課題と考察

実際の授業では、このrewriite文は該当セクションへの導入として読ませ、この後の授業では教科書本文(オリジナル)を読んでいくことになります。

ここで、一つ問題が生じます。一度(簡易版で)概要を掴んだ内容を、わざわざオリジナル版で読む必然性がない、ということです。

改めて本文を読む必然性を作り出したり動機づけを行うには、何かしらの工夫やしかけが必要であることは、oral introductionを行う際と同じと言えるでしょう。Oral introductionを行う際には、極力本文の核心情報には触れないでおくことを心掛けます。Rewrite文を作成するときにそれと似たような工夫ができることが望ましいでしょう。

今回作成したrewrite文は、できる限り本文の情報量を保つように作成しました。場合によってはむしろ、オリジナル本文から情報をいくつか抜いたものを簡易版として与え、オリジナルを読む際に簡易版には書かれていなかった情報を探しながら読ませるといった仕掛けも有効かもしれません。

今回の取り組みは、私としては「お試し」でやってみたのですが、意外と生徒の喰いつきは悪くなく、様々にヒントを得ることができました。ChatGPTのようなgenerative AIを活用して教科書本文をrewriteすることで、多種多様なインプットを生徒に与え、様々な「読み方」を生徒に経験させることは非常に有意義であると感じます。

『教科書「を」ではなく、教科書「で」教える』ことを可能にするgenerative AIの台頭を歓迎し、もっともっと活用していくべきではないでしょうか。


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