理解のためのrecitation&retelling活動①
英語の授業でrecitation(暗唱)やretelling(再話)活動を頻繁に行っている先生方も多くいらっしゃると思います。私もその一人で、授業の中にできるだけこうした活動をうまく組み込んで進めていくよう意識しています。
Recitationやretelliingを授業で行う際、多くの場合それらはoutput活動やspeaking活動として位置づけられているのではないでしょうか。実際、生徒の側からすれば、学んだ英語を自分の中に取り入れて、自分の口からその英語を発することで、英語を「話した」実感が得られることでしょう。Speakingに対する自信にもつながりますし、学んだ言語材料を内在化するのにも効果的な活動です。
しかし、私はこうした見方とは少し異なる狙いを持ってrecitationやretellingを授業に取り入れています。簡単に言えば、本文内容に対する自発的なより深い理解を促すためにこれらの活動を行っています。
そういう意味で、私にとってはrecitationやretellingはどちらかというと読解・理解のための活動です。もちろん形式的にはoutput活動でもありますから、input/comprehensionとoutputに同時に取り組める活動になります。考え方ややり方次第では、英語授業にありがちな「深い理解のために単調な講義形式に陥ってしまう」とか「output活動を設けるために本文理解が浅いままになってしまう」といった悩みを、一度に払拭できる活動であると思います。
本稿から数回に分けて、recitationやretellingの活動がどのように理解を深めることにつながるのかを説明し、どのように授業に組み入れていけば効果的な活動となるのかを考えます。
きっかけは古文の暗唱体験
私がrecitationやretelling活動が理解を深めるという発想に至ったのは、実は自らの実体験がきっかけでした。
あるとき、担任をしていた生徒たちが、古文の学習で『おくのほそ道』(松尾芭蕉)の一節「平泉」を暗唱していました。その時私も生徒たちと一緒に暗唱に挑戦することにしたのです。
暗記にはそれなりの自身を持っていましたが、暗唱を始めた途端、挑戦したことを後悔しました。何度読み返しても、何度音読しても、文章が全く頭に入ってこないのです。それもそのはず、そもそも文の意味がまるでわからないので、ランダムな記号を覚えているようなものです。
このような一節ですが、まず最初の一文からまったく意味が入ってきません。何の背景知識も語彙知識もない中で読むというのが、これほどまでに意味不明な感覚であるというのは、新鮮な発見でした。とにかく何も分からないので、呪文や暗号を丸暗記しているような感覚になります。これでは暗唱は不可能と判断し、まずはネット上の解説サイトや解説動画を見て、意味を理解することから始めました。
解説のおかげで、「三代の栄耀」が藤原氏三代の栄華を指すこと、「一睡のうちにして」というのは一晩の夢のようにはかなく消えてしまったことを表すこと、また「大門」「秀衡(の館)の跡」「金鶏山」「高館」「北上川」「衣川」「和泉が城」といったところの地図上での位置関係、これらを一つ一つ確認しながら、ようやくこの文の意味が少しずつ理解できました。
一通りの理解が進んだところで、改めて暗唱に取り組むと、はじめの呪文や暗号を暗記しているという感覚とは全くことなることが分かりました。字面だけを追う暗記ではなく、背景知識、意味、位置関係などを脳裏に思い起こしながらの暗唱は、それ自体がまさに「学び」と呼べる経験でした。
この暗唱体験で私が実感を伴って発見したことは以下の3つにまとめられます。
暗唱は理解なしでは不可能。言い換えれば、暗唱には理解が不可欠。
暗唱は字面を追うのではなく、知識や情景を追うことになるので、深い理解につながる。
よって、暗唱活動は理解を深めていく活動だと言える。
どれだけ詳細な説明を講義として与えても、その知識を取り入れる必然性が学習者側になければ身につくことはありません。暗唱を課すことで、暗唱のための大前提として知識の獲得に必然性が生じ、学習者が主体的に知識の獲得に取り組める。これが私の仮説です。
次回以降では、実際に英語の授業の中でrecitationやretellingをどのように採り入れるか、またそれがoutput活動としてだけでなく、いかに「深い理解」を促す活動となるのかをご紹介します。
なお、本稿のテーマから逸れますが、今回ご紹介したように、教師自らが他教科の学習を経験してみることで得られる気付きは多いと感じます。それについてもどこかでまとめて書きたいと思いますが、皆さんも(時間はなかなか取れませんが)生徒たちと一緒に他教科の学習に取り組む機会を持ってみてはいかがでしょうか。
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