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蛤の時に剥がれぬ貝柱

春の季語にはやたらと貝が多いです。浅蜊、蜆はもとよりサザエ、赤貝、バカ貝、ホッキ貝、鳥貝、烏貝、馬蛤貝などたくさんあります。でも代表格はやはり蛤ですね。日本人は平安の頃から蛤の殻を薬などの容器に使ったり、内側や外側に絵を描いて「貝合せ」や「貝覆い」で遊んでいました。他の貝でも大きい殻のものはありますが、蛤の色や形は特別な気がします。

ニューヨークにいた頃ダウンタウンにある「百川」という日本料理店によく行きました。もう10年以上前なので今もあるかは分かりませんが、当時、女将が特別に作ってくれた「蛤ラーメン」は今でも私にとっては一番のラーメンです。蛤そのものが出す旨味がベースで、どんぶり鉢に入れて出す蛤汁にラーメンの麺が入っているだけという感じでした。日本にも勿論、蛤ラーメンはあると思いますが、百川の蛤ラーメンはラーメンという範疇に入れてはいけないのかも知れません。

昔から日本人に馴染みのあった蛤ですが、経済発展とともに沿岸での蛤はほとんど姿を消し、1980年代には周防灘や有明海の一部に局地的に生息するだけとなり今では絶滅危惧種に指定されています。そんな訳で現在、日本で食べられる蛤は糸島で特別に管理された蛤以外は、全てチョウセンハマグリ又はシナハマグリだそうです。

蛤の語源は浜栗だそうで山の栗に対して浜の栗だったんでしょうね。ところで最近はやりの「半グレ」の「ぐれる」と言う言葉はこの蛤から生まれたそうです。二つの貝殻は向きを合わせないとぴったり合わないので、物事の手順や結果が違うことを業界用語みたいに逆さ読みして「ぐりはま」と呼んだらしいのです。それが訛って「ぐれはま」となり、そうなることを「ぐれる」と言ったそうです。ほんまかいな!

蛤のいらとさせたる貝柱

蛤の貝柱はポロッと簡単に取れる時もありますが、中には殻にしがみつく柱もあります。でも諦めるわけには行きません。いらっとしながらも箸の先で削ぎ落とします。

蛤の時に剥がれぬ貝柱


最初の句だと蛤の貝柱はみんな剥がれないみたいですね。蛤の名誉の為に時々ですよとしました。「いらっ」とするか「それが楽しみなのや」は読み手次第にしました‼️

蛤の待遇羨む浅蜊かな

浅蜊でも大粒の浅蜊は蛤に負けないくらい美味しいですが、扱いは十把一絡げです。なんて浅蜊の嘆きを擬人化して見ました。どこかにサラリーマンの悲哀を感じてもらえるでしょうか?

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