【新連載】小説『Feel Flows』①

新連載をはじめます。
この物語は、ある架空の人物に突然人生を照らす光が届かなくなり、彼が冷たく暗い境遇に立つところからスタートします。
念のために申し上げると、この話はフィクションであり、実在する人物とは全く関係がありません。

(一)
水温躍層ということばを知っているだろうか。海や湖などに飛び込み、底に向かって一定の速さで潜っていくと、ある深さを超えたところで急激に冷たい水に囲まれる。水温は上から下に向かって徐々に一定の割合で冷たくなるのではなく、ある境目を超えると急に身の危険を感じるほどの冷水に変わるのだ。その境目ことを水温躍層とよぶ。

人生の転機も、緩やかな前触れなんてないままに一気に訪れるものではないかと思う、まるで水温躍層を超えるときのように。

僕は突然、これが自分の生きる道だと思っていた道に戻れなくなってしまった。生きる上で、これだけは外せない、これは最も優先事項の高いものだと思っていたことをやめなくてはならなくなったのだ。
つい5日前まで、そんなことになるなんて微塵も予想していなかった。

いや、最悪なことを考える癖のある僕は似た状況を考えたことはあったかもしれない。でも、考えの中ではそれはすぐに状況が変わるものと楽観視していた。
例えるなら、暗い夜道におびえることがあってもそこにいつか陽が昇り、明るく照らしてくれるようなイメージ。少しの辛抱で、もとどおりになる。そんな風に考えていた。

僕が今いるところは、まるで水深1万メートルに潜った潜水艦の中だ。太陽はこれまでと同じように昇っているのかもしれない。でも、その光が届かない場所にいる。

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