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コミュ力上級者は、ずるい?!「ずるい聞き方」を読んだ感想


「ずるい聞き方」山田千穂

元渋谷109のカリスマ店員で、週刊誌記者として活躍されている方が出した、コミュ力の秘密が分かる本、「ずるい聞き方 距離を一気に縮める109のコツ」を読んで、いろいろ考えるところがありました。
そもそも「ずるい」とはなにか?

最初、題名の「ずるい」は、売るための「大げさな攻めた言い方」と思っていたのです。本のはじめにも、「欺したり、陥れたり、負かしたりするのではなく」「相手への敬意があってこその裏技」と書いてあります。でも全部読んでみて、確かに「ずるい」というのも分かる、と思いました。
著者の山田千穂さんは、高校生の時よく友人から「千穂〜、ずるい〜!」と言われていたそうです。ひいきされていたわけではないけれど、頭髪検査を見逃してもらったり、試験範囲を教えてもらったりしていたと。
もしかして、ひいきされてたのかもしれません。
実際に、渋谷109のカリスマ店員で、週刊誌記者として取材対象の懐に飛び込んでとくダネ!をゲットしてきたのですから、普通の人にはない、特別に可愛がってもらえるような人間的魅力があるのでしょう。

そういう人間的魅力って実は、決して自然体ではないんですよね。
今ふうに言うならば、良くも悪くも「あざとい」のです。
どうすれば相手に少しでも良く思ってもらえるか、考えて、工夫して、努力している。好かれるために、ものすごくがんばっているのです。
本書では、好かれるための「裏技」も紹介されています。たとえばわざわざ調べてその場所にいる相手に会いに行ったのに、「え?!びっくり!」と偶然を装うとか。古典的少女漫画の、好きな人の前でわざとハンカチを落とすみたいなものですね。
何も知らない相手は「運命かも?」と思ってしまうかもしれません。
相手を欺しているのでは…?
本書を読んで一番もやっとしたのはそこでした。
わたしは、「正直に生きたい」という気持ちが強いのです。自分自身にも正直に、相手にも正直に。だから、ずるいテクニックを使っていいのかな?と思ったのですが。
ところがあらためて自分自身を振り返って考えてみると、お恥ずかしながらわたし……実は正直にこだわりすぎて、数々の失敗をしてきていたのでした。
たとえば、いただいたプレゼントを「好きじゃないので要りません」と正直に断って、がっかりさせてしまったり、つまらない話に正直につまらない顔をして場の空気を悪くしたり、相手の気分を害したり。
傲慢で無知だった若い頃のことです。自分ファーストな正直さは、決して美徳ではないと、年を重ねてから気づいたのでした。

場を和ませるため、相手へのいたわりの気持ちからの「演出」は人間関係の潤滑油なのですよね。
と、ここまで考えて、「コミュニケーションに必要な演出」と「コミュニケーションを妨げるウソ」の違いが、はっきりと分かりました。
自分の我欲で、相手を傷つけたり損害を与えるウソは、ダメ。
でも相手が喜び、自分も嬉しい「演出」はあり。テクニックとして、積極的に使っていくべき。
営業の達人からこんなテクニックを聞いたことががあります。
酒造会社の人を接待することになったとき。そのメーカーのお酒を置いてあるお店はめずらしく、あまりなかったのだそうです。なので、接待するお店に前もってその酒造のお酒を入れといて欲しいとお願いしておいて……当日、お酒を選ぶときに「あ!ここには置いてますね!」。これは酒造会社の人、喜びますよね。嬉しい気遣いです。
同じような例で、本書の著者の山田さんは109店員時代、服を売るときに、
「お客様は一層素敵になるし、私も売上アップだし、お互い超ハッピー!」
をモットーとしていたそうです。
この、「お客様が素敵になる」が大事なポイントですね。
自分が売上アップするために、お客様に似合いもしない高い服を売りつけるのではないのです。

相手のためになり、自分も嬉しい、そういう演出は、自分が正直であることよりも、大事なのです。
本書読了後、自分をふりかえって一番、グサッときたのはそこでした。
良いコミュニケーションとは、誰のためか?
自分が得するための詐欺的なウソがダメなのはもちろん当たり前なのですが、相手の気持ちや場の空気を無視した自分ファーストな正直さも、ダメなのです。
わたしが、本書の山田さんに対して「ずるい…」と感じた気持ちの底には、自分はそこまで人に好かれるために努力できないという言い訳がありました。努力を怠っているのは自分なのに、がんばっている人を「ずるい」という言葉で見下すことで、溜飲を下げていたのですよね。
わたしの中にある、ねじくれた気持ちに、気づかせてくれた本でもありました。
著者の山田さんに感謝です。
涼しい顔で微笑むコミュ力上級者とされる人が、水面下で、どんなに死に物狂いの努力をしているか、その手の内を見せてくれる本です。かっこつけたり、キラキラぶったりせずに、ここまで開けっぴろげに自分をさらして、好かれるための裏技を惜しげもなく公開してくださって、ありがとうございました。

もうひとつ。本書で見習いたいと思ったこと。
人との理想的な距離感の話です。ずっと親しく付き合いたい人とは、1ヶ月に1回会うのは多すぎるから、ワンシーズンに1回くらいでいいという。おいしいからこそ、腹6分目。
心に留めておきたいと思います。

最後にわたしが個人的にとても気になった点。本書にはあちこちにポロッと、「母子家庭で貧しい家で育った」と書かれているのですが、著者の山田さんの生い立ちが気になります。人に対して「明るく、素直に、真面目に」接することを心がけていると書いてあるのですが、生来明るくて素直で真面目な人は、あらためて、それを意識しないものなのです。おそらく、生きていくために、意識せざるを得ない事情があったのでしょう。
山田さん、どんな人なのかなぁ。
人たらしなんだろうなぁ。
数回会っただけじゃ、腹の底が読めないんだろうなぁ。
いつか、山田さんの半生を描いた本を読んでみたいです。

「ずるい聞き方 距離を一気に縮める109のコツ」山田千穂 朝日新聞出版

コミュニケーション上級者の秘密を知りたいという方におすすめ本です。

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