10年後
すっかり凝り固まった肩を軽く回し、ほぐす。パソコンの画面には書きかけの原稿が表示されていた。
「十年後の私、か」
ぼぅっと書いたところまで読み返し、お題を再び確認する。十年の前の私にはいまの私が想像できていただろうか。きっと、小説を書いているといったところで、信じてもらえないだろう。小説家に憧れはあったが、まさか自分が書く側に回るだなどと思いもよらない。
「もう一息、と」
再び、キーに手をのせる。もし、十年後の私から、もう小説を書くのはやめたのだ、と聞かされたところで、私は驚かない。それが五年後、いや、一年後の自分からであったとしても。それほどまでに最近の私は、小説を書くことをプレッシャーに感じるようになっていた。
「いつまで続けるんだろうな、これ」
いまは溺愛TLなど書いているが、十年後を考えると年齢的に厳しい。かといって純文学や文芸作品が書けるとは思わない。いろいろな意味でどん詰まり、なのだ。
「あーあ。もう、やめちゃう?」
本格的に書く手が止まる。十年後の自分がまだ、書いているなどと想像できないとなるとさらに。
台所へ行き、ごくごくと気分転換に水を飲む。戻ってきてパソコンの前に座ったものの、手は全く動かない。もし、いま書くのをやめたとして。十年後の私はなにをしているんだろうか。この十年にハンドメイドメインから小説メインに代わったように、なにかを見つけてやっているんだろうか。
「ま、これしかできることはないわけで」
重い手を上げ、またキーボードに指をのせた。なんだかんだいいながら、きっと十年後も私はキーを叩いている。ぐだぐだいろいろ考えながらも結局、そう確信した。
【終】
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