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【作家の恋13選】恋をキリトル140字の物語 15

◇1
こないだから1行も書けない。
ストーリーが全然出てこない。
Mac睨んで1行書いて「だめだこりゃ」の繰り返し。
「潮時だよ。夢なんて捨てろよ」
私を1番愛する人が1番私を苦しめる。
捨てられる夢なんて夢じゃない。
ただのゴミだ。
ほっぺた叩いて一声叫び、モニターに向かう。
自分の価値をひたすら信じて。

◇2
自分を知らなきゃいい物なんて書けないって
土足でズカズカ心の中に踏み込んで
扉開けて傷口抉って
さあ書けって
泣いてる私に言い放って。
大っ嫌いって何度も思った。
消えろって。最悪って。
私は私の好きなものを書く。
だから邪魔しないでって。
愛だとわかったのはうんと後。
君のおかげで今日も書いてる。

◇3
「才能あるのになんで花開かないんだろうねえって…なんでだろうねえ。俺の方が聞きたいよ」
私のカリスマが自嘲気味に呟く。
まだねその時じゃないんだよ。
でもね信じて。私の審美眼は君こそ本物と告げている。
天下をとってドヤ顔させて。
ずっと前から見つけてた。
君の心の奥底に光る唯一無二の輝きを。

◇3
「布団もソファもなくてどうやって寝てるの?」
「床に直寝か椅子で寝落ち。そもそも寝てる時間がもったいない」
「呆れた!いい?睡眠は健康の要よ。寝なきゃ物作りなんてできないんだから」
「わかった」
「口だけでしょ!もうっ。今日から私ここに住む。あんたの生活改善するわ」
下心0の押しかけ女房。

◇4
冷えピタ貼ってMacに向かう。
無理しちゃダメよ。
寝てて。私が手伝ってあげる。
貴方がその指で生み出すものをたくさんの人が待っている。
でもね倒れちゃ続きが書けないでしょ。
熱の日くらいは甘えなさい。
何のための彼女なの?
後でお粥も作ってあげる。
いつも守ってくれてる貴方に小さな小さな恩返し。

◇5
「好きな子いるんでしょ?私は作家よ。何でもお見通しなんだから」
鼻高々の君に脱力する。
誰に恋してると思ってんだバカ。
鈍感すぎる君を前にして、
苛立ちと愛しさと諦めと絶望と希望が
頭の中ぐるぐる駆け巡っている。
何も言わないのは邪魔したくないから。
君の夢が叶うまでこの恋心に鍵をかける。

◇6
遅れて始めた彼が私を追い越し
こっちへ来いよと手を差し伸べる。
「お前は俺より才能あるんだから。もっとビッグになれるんだから」
私はプロになんてなりたくない。
なぜ趣味じゃいけないの。
「俺のエゴだってわかってる。それでも同じ景色を見たいんだよ」
至高を求めすり減る君。
全く理解不能な生き方。

◇7
私を見ると顔をしかめる。
その表情たまらんわ背筋ゾクゾクしてくるわ。
早く書かんとこの想い。
どこかに飛んで消えてく前に。
「お前俺が好きなんやなくて恋する自分が好きなだけやろ」
吐き捨てるような声にケッとなる。
うけとめる気がないんなら私の好きなように惚れさしとけよ。
片想いに注文つけんな。

◇8
あなたの昔を教えてちょうだい。
グイグイ迫る彼女は作家。
いつも狂信的な目で新しいネタと新しいキャラを求めている。
嫌だと言うのに追い詰められる。
あの執念絶対異常だ。
関わるとヤバい。
だけど新たな俺を見つけてくれるのも彼女なので。
すん、として結局まな板に上がる。
せめて美味しく食べてくれ。

◇9
「もう俺って終わったのかな」
なんでこんな事言っちまったんだ。
負け犬の遠吠え。情けねえったら。
「ごめんね。孤独にさせてたね。でも私は君の物語が大好きだよ」
悲しげに歪む薄い唇。
慰めなんて余計惨めになるだけで。
惚れた女の声にすら溜息つくようじゃ末期だな。
終わりの予感はきっと、正しい。

◇10
‪彼をモデルに初小説。
ポストに投函し力が抜けた。
書いてる時は必死だったけど
これからは何で紛らわせばいいんだろう。
想い出が私を解放するのは一体いつなんだろう。
半年後受賞しドラマ化され
私の失恋はエンタメになった。
私は未だに檻の中。
創作者にはなりきれない。
あなたからの電話を待ち続けてる。‬

◇11
せフレが4人。
結婚しても浮気はするって断言してる。
何より私に女としての興味が無い。
君との未来はありえない。
でも。私は君の作るものが好き。
恋と錯覚してしまうほど。
だから。
君とずっと仕事で繋がるために私もずっと作っていくんだ。
ねえ私の作るものを好きになってよ。
君への手紙。受け取って。

◇12
「俺ってただの天才やから」
開口一番そういわれ第一印象は最悪やった。
それから2年の時が過ぎ
確かにそれ以外の表現が思いつかへん。
「私なんかでホントにええの?取り柄なんて何一つないよ」
「あるやん」
「何?」
「俺の隣にいてくれるとこ」
「そんなん取り柄やないわ」
「お前に求めるのはそこだけや」

◇13
恋愛小説のネタを探しに中学時代の日記を開く。
好きだった男子にヒゲゴリラと呼ばれていた。
マジか。全然覚えてないぞ。
しかも恋にとち狂った私は彼の視界に入れたと小躍りして喜ぶ始末。
ふう。少し落ち着こか。
記憶より記録がいつも正しい。
彼に会ったら私のどこに猿を見たのか
小一時間問い詰めたい。


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