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【夢追う人10選】恋をキリトル140字の物語 10

◇1
バンド仲間に右手をとられ手の甲にちゅっ、とキスされた。
「明日から東京。さよなら。俺のお姫様」
爽やかな笑顔で去ってく君。
5回も告白ありがとう。
ほんとは私も好きだった。
親友が先に君を好きになり、私は彼女を裏切れない。
伝えられない言葉を飲み込んで、熱い左手に唇を寄せる。
涙味の間接キス。

◇2
好きな人ができたと嘘ついて腐れ縁にケリつけた。
君は悲しそうな顔をして
でも最後には笑ってくれた。
海のように優しい。
こんな人には一生出会えない。
胸の奥がチリチリ痛む。
別れたくないと心が暴れる。
でも夢を追う君をただ待つだけの人生は選べない。
私ずっと信じてるから。
世界を拓くのは君だって。

◇3
白塗りルージュでパンクしてた君が
四月から市役所の人になった。
「夢は叶わないから美しいんだよ」
笑顔で毎日言ってるけど本当は音楽に未練あるよね。
それでもネクタイしめて満員電車に揺られ
遅くまできっちり仕事する。
そんな君を尊敬するよ。
ステージ変わっても応援してる。
私は一生君のファンだよ。

◇4
「お前に才能なんてない。身の丈を知れよ」
「私は私の夢に価値があると思ってる。才能なんて関係ない」
「お前の為に言ってるんだ。愛してるから」
「君の愛は呪いだね。私の未来を潰そうとしてる」
3年過ぎ彼女の歌は世界に届いた。
本当はダイヤモンドだって知ってたさ。
ただ独り占めしたかっただけで。

◇5
「落ちてた」
文芸誌を机に投げ出す君。
「君の小説は私の人生を変えたよ」
「世界を変えなきゃ意味が無い」
天より高い君のプライド。
「仕切り直しだ。次こそとるぞ」
明るい声にほっとした。
夢は叶うよ。
私には背中の羽が見えてるの。
君の価値を届けるためなら何でもする。
私は君のナンバーワンのファン。

◇6
‪コンテストで半端なくとちった。
ボロボロ間違えながら弾き終える。
エアコンで指がかじかんだ。
対策しなかった私のせい。
彼はいつも通り完璧で
前評判通り優勝をかっさらう。
帰り道はお互い無言。
最愛の人が最大のライバルなんて幸せなのか、どうなのか。
恋人繋ぎの掌が熱い。
慰めないでね。泣けるから。

◇7
‪普段は無口な人見知りなのに舞台に出ると豹変する彼。
早速「天才役者」なんて騒がれてる。
私もああなりたかったな。
空気みたいに目立たない私は舞台の上でも空気のまま。
側にいるとどうしても比べちゃうよ。
恋人だからこそ凄く辛いよ。
君の羽をもぎ取って広い空へ飛び立ちたい。
愛より欲しい君の才能。

◇8
‪「ツアーも全部ナシになってこの先マジでどうなるんだろな。ごめんな。毎日暗い話ばかりで」
「謝らないでよ。1番辛いのは君なんだから」
「あんな時もあったよなって、笑い話にきっとするから」
歯を食いしばる君を
私はただ
見守るしかできなくて。
「また板に絶対立てるよ。心の底から私はそう信じてる」

◇9
‪君のこと忘れたわけじゃない。
好きだ。
だけど俺の24時間は夢を追うために振り分けられて君を1年放置した。
そんな日々がこの先ずっと続いてく。
絶望だよな。でも俺きっと変わらない。
君は一言も責めずに身を引いた。
自業自得なくせに胸が痛い。
最愛の女を捨ててまで求めた夢。
いつかこの手に必ず掴む。

◇10
夢を諦めるって妙にサバサバ語る君。
君の人生は君のものだし
うん別にいいと思う。
でもさなんで私に言うかな。
勝手にやめればいいんじゃないかな。
夢を追うことにリスクなんてないって
何度もそう言ってたじゃん。
嘘だったの?忘れたの?
何にせよ。
恋した君はどこにもいないと
はっきり気づいた冬の午後。


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