見出し画像

13写真

フランスパンを片手に三脚の前に立たされて。バンダナとエプロンを直されて距離の近さにドキドキの私。「ほれ、いくぞ」店長が隣に来た瞬間フラッシュパチリ。「ん、よし」モニターを覗き込む満足げな彼に「求人用の写真ですか?」と聞いてみた。「いや。趣味」「趣味⁉」頭の中に?マークが飛び回る。

「俺カメラが趣味なのよ。新しいのが来たから試し撮り」

店長は言う。なるほど。そういう意味ですか。

「いいよな。このフォルム」

三脚から下ろしたばかりのでっかいカメラを撫でながら目を細める。
その手つきにドキッとした。
ああ、すごくカメラが好きって感じの触り方。
パン生地に触れてるときと似た、独特な色気を感じてしまう。
ああ、なんだろう。この気持ち。
ざわざわする。店長といると、心の奥がきゅっ、ってなるよ。

「見てみる?」

言われてモニターを覗き込む。頬を桜色に染めた私がそこにいて、一瞬で息が止まるかと思った。
なんて顔をしてるの。私ったら。

この顔、目。
まるで、まるで、

なんか、みたいじゃない。

「綺麗に撮れてるだろ。腕がいいからな」

自画自賛する店長の前で、私は一人、焦りまくっていた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?