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12開店前

鉄板を受け取った瞬間グローブしてないことに気がついた。「おいこらお前、何やってんだ」気づいた店長が鉄板を棚に戻し私を奥へと引っ張っていく。「火傷するだろうが。バカ」水道水の冷たさを指先に感じながら私は「すみません」と俯いた。「怒ってるんじゃない。心配してるんだ」声が和らぐ開店前。

「お前ってさあ、もうちょいリアクションしろよ」
「すみません」
「そうじゃなくってさあ」
鉄板を素手で持ってしまった私を前に、店長のお説教は続いてる。
処置が良かったのか火傷はない。
でも店長はなんだかまだ怒ってるようだ。
「私、とろくて……迷惑ばかりかけて……本当にダメダメですよね……」
責められてる間に落ち込んできた。
店長ってすごく一生懸命だから。
パンを愛してるのわかるから。
なんの夢もない私は、店長の力になることだけを目標にして、毎日頑張ってたつもりなのに……。
ダメだなあ。
いつも空回り。
お役に立ちたいだけなのに……。
かえって足ばかり引っ張ってる。

こん、と額をつつかれた。

「いたっ」
「的外れな落ち込みすんじゃねーよ。心配なだけだ。そんなにリアクション薄いとさあ、助けに行けないだろ?」
「そんなことないです!」
私はついムキになる。

「今日だって……助けてくれましたし……これからもきっと……」

そう。
いつも助けられてばかりだから……何か恩返しを私もしたくて。
でも、しっかりすることくらいしか、今の私にはできそうにない。

「……ありがとうございました。パン、作りますね!」

笑顔で言って作業場に向かう。
と、肩をつかまれて、強引に椅子へ座らされた。

「少し休んどけ」
「でも」
「命令だ」

大股で作業場に向かう後ろ姿。
小さな胸が、とくん、と鳴った。


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