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15山奥に転校していった王子さま

木下くんがとても好き。無口なんだけど男らしくて素朴で優しくて、完全無欠の王子さま。木下君が転校して1週間、体に力が全然入んない。ねえ、いつかまたきっと会えるよね。そしたら絶対こう言うんだ。君の笑顔がとても好き。君は運命の人なんだ。気持ち受け止めてくれるかな。隣にいさせてくれるかな。

来てしまった……。

半日に一回しか通らないというバスから降りて、大きな山に挟まれた国道沿いのバス停におりる。
田舎って聞いてたけど、想像以上だ。
これ、絶対、彼に会いに来たってバレちゃう。どうしよう。たちまちなけなしの勇気が萎んでいく。
一度も話したことがないのに、会いに来るなんて図々しいよね。

日を改めよう……。
バスの時間までせみとりでもして時間を潰そう。
と思ったら。

「あれ?」

涼しげな声がした。

肩がビクッと上がってしまう。
聞き間違えようがないよ。だって好きな人の声だもの。

振り向くと短髪に髪を切った、Tシャツに短パン姿の彼がいた。
手にはバケツを下げていて魚が跳ねている。
すっかり、転校先に馴染んでる。

隠れていよう、なんて思ってたのが馬鹿馬鹿しくなるくらい、好きという気持ちが溢れてきた。

「ごめん。私、会いにきた。理由はね」

私は震える声で語りかけた。

振られてもいいんだ。

気持ち、彼に、伝えるんだ。


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