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ミスド

久々にミスドに行ってきた。恐らく4、5年ぶりに。
ふと甘いものが食べたくなったのだ。
子どもの頃はあんなに大量に食べていた甘味を、近頃はあまり好まなくなっている。
あの頃は毎週のように最寄りのミスドに繰り出し、店中のハニーチュロを捕食していたものだ。懐かしい。
別に嫌いになった訳じゃない。ただ一口でいいのだ。それで満足なのだ。たくさん食べると胃もたれするし、口の中が甘ったるくなって良くない。
そんな訳で最近は、お菓子を食べたいときには煎餅ばかり食べている。
ただ先日は違った。
「ミスド食いてえ…」
心の底から湧き上がる衝動。
これはもう、行くしかないっしょ。

ポンデリング、オールドファッション、フレンチクルーラー、ストロベリーリング、ゴールデンチョコレート、ココナツチョコレートの6つを購入。
普通過ぎてつまらないと思う方もいるだろうが、数年ぶりのミスドならこれが最適解であろう。
ちなみにハニーチュロは買わなかった。私は過去にすがらない。

「ただいま。今日ミスド買ってきたよ。」
「あらいいわね。夕飯の後にでも食べましょ。」
夕飯を爆速で終え、満を持してドーナツたちと対面だ。

うん。美味い。
こんな美味いものをずっと食べていなかったのか。もったいないことをした。
特にこの、ココナツチョコレートが美味い。
「ココナツチョコレート美味いなあ。」
私が呟くと、君が返す。
「ゴールデンチョコレートの方が美味しいけどね。」
カーン。
ゴングが戦いの始まりを告げる。
「それは間違っている。まともな生活をしていたらゴールデン好きにはならない。」
「それはおかしい。ココナツはパラパラ零れて食べづらいし、サクサクしたゴールデンの方が食感もいいぞ。」
「何を言うか。君は生野菜も生魚も辛い物も酸っぱい物も苦手な馬鹿舌なのだから、味の話に関しては私に理がある。」
「それならあなただって…」
「あーでもないこーでもない…」
その後もアホだのマヌケだのトンマだのウスノロだの、シューリンガンだのグーリンダイだのポンポコピーだのポンポコナーだのと、知的な舌戦は勢いを弱めない。
互いが互いを強めあう超大型台風である。
「お前はカレーよりシチューが好きだとも言っていたな。」
「あなたこそ、たけのこの里よりきのこの山派じゃない。」
台風は訳のわからない領域まで被害を拡大させている。
このまま両者力尽きるまで吹き荒れるであろうと思われたその時…

「あなたそんな性格だからモテないのよ。」

風が止んだ。
この一言の威力と言ったら、核爆弾や大地震、隕石襲来の類である。
現実にはモテるイケメンが言われたならば口答えも出来うるが、実際私はモテない。
非モテ街道を爆進し続けて四半世紀を過ぎた頃である。
もはや返す刀もない私はよろよろと冷蔵庫を開き、一番強い酒を一気に流し込み、「うるせー」とみっともなく叫んだかと思うとさっさと眠りに就いたのだった。

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