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卵をめぐる祖父の戦争

先日、「1917 命をかけた伝令」という映画を観てこの本を思い出した。両者は、若い2人の兵士が命をかけて戦場・危険地帯を駆け回るという設定が似ていた。

違う点もあった。「1917 命をかけた伝令」では第1次世界大戦中のフランスを舞台にイギリス軍人が主人公を務める。一方、「卵をめぐる祖父の戦争」では、第2次世界大戦中、独ソ戦でドイツ軍に包囲されたレニングラード周辺を舞台に、ロシア人兵士が主人公となっている。

そして最大の違いが、前者が孤立しかけている友軍に決死の伝令をするという英雄譚であるのに対して、後者は物資の欠乏したレニングラードで、上官の娘の結婚式のために卵の調達を命じられるという冴えない話である点だ。この違いにより、常に自分の死と友軍の死を意識して使命感とある種の悲壮感を抱える前者の主人公たちに比べて、後者は大人しい主人公のレフと調子のいい年上のコーリャの年相応の面が都度顔をのぞかせる。

とはいえ、2人は第2次大戦でも特に凄惨だったと言われる独ソ戦の真っ只中にいる。戦争は彼らの日常から既に多くのものを奪っている。そして卵探しを通じて彼らだけでなく周りからも多くのものが失われたこと、さらにそれが進行形であることを2人は目にする。しかし主人公の2人を含めて登場人物達は悲観するばかりでなく、笑うこともあれば、冗談を言うこともある。明日どうなるか分からなくても、それを心配しているだけでは生きていけないのだと気づかされる。レフ達にとってはこの状況下でも青春時代であることに変わりはない。

戦争は過去の話である。読者である我々は、最終的にレニングラードは解放され、大戦は45年に終結することを知っている。そして題名が示す通り、レフはここで死ぬ運命にない。これはレフが孫に聞かせた物語なのだ。青年時代のレフにとっては、卵を得ることが最上の使命だった。しかしそれは所詮赤の他人の結婚式のためなので、その後の彼の人生においてさして重要でないのは明らかだ。それでは卵探しを通じて彼が何を手にするのか。最後まで読み進めてほしい。


#読書の秋2020

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