Vol.11 聴覚障害者への合理的配慮(座席編)
長い間ご無沙汰しておりました…久しぶりの更新です。
最近、様々な研修会や講座に参加する機会が増え、充実した日々を過ごしています。
私の相棒たち「補聴援助システム、文字おこしアプリ(字幕)」も、毎回フル活動で頑張っています。
時々、私の集中力より先に、相棒が充電切れを起こすこともありますが…、
喧嘩せず仲良くやっています(笑)
研修や講座に参加する際に、”聞こえにくいこと”を伝えると、
「どのように対応したらよいか」
「どの席がよいか」
と運営側の方が訊ねてくれることがあり、聴覚障害者に対する社会認知が少しずつ広まってきていることを嬉しく感じています。
今回は、Vol.11 聴覚障害者への「合理的配慮」についてお送りします。
みなさんは「合理的配慮」という言葉を耳にしたことはありますか?
「合理的配慮」については、こちらのサイトをご覧ください。イラストもあり、とても分かりやすい説明になっています。
この他にも、「困りごと」に応じてさまざまな対応があります。
今回は、聴覚障害への合理的配慮の中でも、目にすることが多い
「座席の位置」の配慮にトピックをあててお伝えします。
学校での授業や講義に参加する際、「どの座席に座りたいか」を尋ねられたり、希望を伝えたりすることがあります。
社会人であれば、会社の研修会や会議といった場になるかもしれませんね。
みなさんは、学校あるいは会社で、聴覚障害者がいた場合に、どの座席を用意しますか?
「音声が聞きやすく、口の形がよく見える位置を」と考えて、
おそらく…“前席”を用意しようと考えた方が多いのではないでしょうか?
(私も、自分の希望を伝える前に、“前の席がいいですか?”と尋ねられることが多々あるので…)
しかし、この座席の配慮、時と場合によって“配慮”にならないこともあるのです。
(あくまでも私個人の考え方であり、全ての方に当てはまるわけではありません。)
私は、「見やすい」「聞きやすい」位置を考えて、座席を選んだり、希望を伝えたりします。
しかし、「ここの席がいい!」と思い選んだ席でも、
実際の講師さんの話し方や動き(活動)によってかえって聞き取りにくかったり、
講師さんの立ち位置関係で、手話通訳士さんの手話通訳が読み取りにくかったり、
会場の空調の音が耳障りで、「座席選びに失敗した…」と感じることもあります。
そのため、毎回どこに座ろうか「座席選び」に悩むのです。
私の場合は、一番前の席ではなく
「廊下側」の「前から2・3番目」を選ぶことが多いかもしれません。
空いていなければ、窓側あるいは、一番前に座るかもしれません。
前の席があまり好きではない理由…
① 前の席は、首が疲れる
一番前の席は、話者に最も近いため、
「表情・口型がよく見える」「声がよく聞こえる」位置であると言えます。
しかし、学校の場合、話している人(講師)との距離が近く、顔の表情や口型を見ようと思うと、首を「斜め上」に持ち上げて話を聞くことになります。
この姿勢で話を聞き続けると、非常に疲れるのです。
だから、私は前から2・3番目の位置に座ることが多いです。
②声が大きい人の場合、音が割れて聞き取りにくい
声が小さくて、聞き取りにくいことに比べると、「声が大きい」ことはありがたいです。
ですが、声が「大きすぎる」と、こんどは声が響いたり、割れたりして、かえって聞き取りにくい場合があります。「熱血・体育会系」というような大きな声の持ち主さんのお話を聞く場合は、少し離れたほうが、むしろ聞き取りやすいこともあります。
③他の人の様子・発表内容が分からない
ただ単に話者の話す「内容」だけを聞くだけであれば、前席でも構わないのですが、
学校の授業や参加型の講座の場合には、「他の人の発表」を聞くこともあります。
そのような時、「話者の話だけでなく、発表者の話や様子を知りたい」と思うのですが、前席に座っていることが、聴覚障害者にとって不都合になることがあります。
学校の授業場面を想像してみてください。
聞くことに問題のない健聴者であれば、先生の話を聞いて、先生が「○○さん」と呼名したら、直ぐに指名された児童生徒の方を見て発表を聞けるでしょう。
しかし、聴覚障害者の場合、これだけの簡単な行動がスムーズにいかないことがあるのです。
補聴器やRoger(補聴援助システム)などを用いて、うまく聴覚活用ができる場合には先生の発した「○○さん」という声が聞き取れたら、
直ぐにその友だちの方を向くことができるかもしれません。
ですが、先生の声がはっきり聞き取れない場合には、誰が当てられたのかと、
常に周りをキョロキョロ見渡す必要があるのです。
私が学生の時は、呼名された友だちの発表を聞き取れるときもあれば、
後ろを振り向き、「目的地」を探す間に、もう発表が終わっている…なんてこともあり、誰が発表したのかはわかっても「何を話したのか分からない」ということがありました。前席に座っていると、他の人の様子や発表をつかみにくいことがあります。
いろんな席に座って試してみたところ、
両端側の2・3番目であれば、窓や壁を背にして横を向くだけで教室の様子が把握できるし、360度見渡さなくても、半周で済むため、誰が発表していたのか、周りの様子を把握しやすくなるような気がします。
④前席に座っても、100%の情報は得られない
ろう学校の場合は、一学級の児童・生徒数が少なく(8人まで)、馬蹄型に座って授業を受けることが多いように思います。
また、先生は前を向いて手話と音声で授業をしたり、話を聞く時間とノートを書き取る時間を分けてくれたりするので、必要な情報が得られる環境にあると思います。
しかし、一般校の場合、「先生が全ての授業を手話でする」という学校は、ほぼ皆無ですし、聞き取れるようにと、ゆっくり話してくれても、先生は他の児童生徒の所へ行ったり、板書をしたり、動き回りながら話をします。
そのような先生の様子を始終目で追い、口型を読むのは、聴覚障害者とって無理難題!!だから、前席に座ったからと言って、100%情報が得られるわけではないのです。
じゃあ、どの席がいいのか?
答えは…
「配慮を求める人自身」がどのような方法で、どの程度情報を得たいのか…
によって変わってくるので、
「最初から本人に、直接、確認する!」
ことをおススメします。
私は、「話を聞く」だけでなく、「聞いたことをメモしたい」ので、部屋の右側(窓側)の2・3列目に座ることが多いかもしれません。
しかし、当日、なにかの影響で聞こえにくくなると、人の話を聞きながらメモをすることが難しくなります。
中学校・高校の時の私は、「先生の話を聞きながら(見ながら)書く」ということができず、いつも置いてけぼりになっていました。
先生の方を向いて話を聞き取り、解釈したうえでノートを書いていたので、
私が聞いたことを書いている時には、先生は別の内容のことを話しているのです。書きながら、板書も写さないといけないので、小中学生の頃のノートには、中途半端に書き取った文章が所どころにありました。
右側の座席だと、体を横向きにして、他人の方を見ながら右手でメモが取れる…というのも選択理由のひとつです。
しかし今は、ノートに目を落とさず前を向いてメモを取るトレーニングをしたお陰で、(乱筆ですが)メモが取れるようになりました。
また、「ここがいい!」と思って選んだ席でも、
「環境要因」によって、情報取得を妨げることになりかねないこともあります。
廊下側が騒がしい場合には、窓側の方がいいかもしれないし、窓側でも体育の授業なんかをしている場合は、外からの声が聞こえてきて先生の声が聞き取りにくいこともあります。夏は、空調の音が大きすぎて聞き取りにくいことも…
座席の位置に加え、要約筆記やPCテイクの支援がある場合には、電源が取れる位置を考える必要性も出てきますし、
手話通訳のサポートを受ける場合には、通訳者さんの立ち位置によって見やすい場所が異なります。
「必要な座席の配慮」は、
聴力レベル、聴覚活用・手話の有無、環境などによって、異なってきます。
ゆえに、聞こえないから「前の席」と決めることはせず、本人の意見を聞き、是非・目的を考慮した上で、配席していただけると嬉しいです。
おまけ…
今は、自分から前の席に座りますが、中学生の私は、
友だちとおしゃべりしたいから…
目立ちたくないから…
と、間違いなく後ろの席に座るでしょうね(笑)
今回はここまで…
次回もお楽しみに!