見出し画像

ハイウェイハイ

 運転中についやってしまう癖がある。昔から、自分1人で高速道路を走るとき、1人インタビューを敢行してしまう。

 子供を連れて出かけた帰り道に子供たちが疲れて寝てしまい、車内が私1人の空間になった時など。
 一般道を走るときにはそうでもないのに、信号もなく単調な景色ばかりが続くからなのかいつのまにか頭の中に次々と自分の過去のエピソードが思い出されたり、誰かや何かについての考えがあれこれと巡ったりして、気付くと私は架空のインタビュアーに向かって淡々と自分語りし知った口を叩いている。バックミラーで情熱大陸さながらのドヤ顔をした私と目が合う。(運転中の眠気対策にも効果があるのだ。)

 人といる時にはコミュニケーションの邪魔にならないようにと気をつけたりもするものの、元々言葉が口を突いて出てくるタイプで、鼻歌もすぐマジ歌になっちまう。当然ひとりごとも多く、しかも夫に言わせるとひとりごちる私の声が大きいらしくて、「誰かに話しかけてんのか」と非常に紛らわしいのだという。夫婦でいるときふと夫に向かって話しかけたのに無視されて「なんで無視するとよ!」と私が怒る。すると「ひとりごとなのか話しかけられてるのかがマジでわからん!」と怒り返されることがしばしばある。

 1人ドラマを繰り広げたりもする。
 頭の中で過去や現実やあらぬ未来を行ったり来たりとするうちに、ときめきや悲しみ、感動の渦巻くドラマチックな妄想へとたどり着くことがよくある。とめどないもしも、とか、いつか、とか。
 数十年後自分が死ぬ時息子を泣かせる『最期の言葉』。私が総選挙で順位を呼ばれたら言いたいコメント。昔好きだった人に再会したという設定で言う「私、今は阿部っていうの。」。ありとあらゆるトラブルをかっこよく優しくスマートに片付ける対話法、夫を口喧嘩で言いくるめる算段とか。とにかく、尽きることのないネタは色々と。
 ただ私の1人ドラマはどちらかといえばロマンチックなものよりも不謹慎でここに書くのも憚られるような前提の上のストーリーが多くて。誰も興味ないと思うし、くだらない上に笑い話にもならなそうなのでこれ以上は差し控えるが、なんにしてもこの思い出すだけでバカバカしい数十分間のひとときが私にとっては楽しくて、これがつい夢中になってしまうのである。思いが余ってしゃべりながら涙が滲むことすらあるほどなのだ。(演技派!)

 ここまで読んでわかっていただけると思うが、去年車を買い替えた際にあると安心だろうとつけることになったドライブレコーダーは、私にとってはとんでもない脅威だ。
 仕組みをちょっと理解していないのだけど、でもニュース映像なんかで見かけるドライブレコーダーの映像ってしっかりと車内音声が鮮明に録音されているではないか。私がこの趣味(ニュアンスを控えるつもりではじめに言った『癖』というカテゴライズをここで一転覆す)に没頭し続ける痛々しい音声が、万が一いつか誰かの耳に入ることになるとしたら…考えただけでゾッとする。
 思春期の日記やポエムノートなんてわけないほどのナルシズムとエゴイズム、まさしくパンドラの箱、ブラックボックス、そうこれぞまさしく黒歴史である。
 寝てると思っていた息子が知らないうちに目を覚ましてて、「え、ママ誰と話してんの…?こわっ…」って言われる日も近いかもしれない。まあでも息子に聴かれるのはまだ良くて。それよりも、なんらかの経緯で他人に聴かれることになったり、もしくはそれ以上に、1人の世界にどっぷり浸かって喋り続ける自分の声を、自分が改めて聴くことの方が未来の私にとっては地獄かもしれない。

 そうは思うが、私は普段脳天気すぎて思慮深く生きられず、いつもろくに考えないでなんとなくで生活している。その分時々、こうやって自分の奥深くの意識に入り込こんで自分に夢中になることが、散らかりっぱなしの心の整理になるような気がする。このときに気付くことや思いつくことが、私の人生を豊かにしてくれることが案外ある。これを書きながら思い出したけど、子供の頃赤毛のアンが好きだった。読書と空想が好きで、赤毛とそばかすにコンプレックスを持っている貧乏な少女。アンのように頑張り屋にも勉強好きにもなれなかったが、それでも「私赤毛のアンかもしれない」と、同じ年頃の頃何度も思った。私って本当に、変わってないんだなー。

 まあどんなにいいように言ってみても気持ち悪い趣味であることには変わりないし、我ながらどうせ語るなら人に語ればいいじゃんとも思う。でも多分、これからもやめられない。
 考えてみたらこうやってnoteに思いつくまま文章書くのも同じことなのだ。文章は少なからず誰かの目に入ることを考えて書くからいいけれど、誰にも立ち入れない1人の世界で泣いたり笑ったりしながらしゃべる私って、本当一体、どういうつもりなんだろうね。

 安心のためにあるはずの車内録音録画機能に怯えながら、自分に自分を語る。高速道路を無理なく飛ばす。
 心はアン・シャーリーになりきって。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?