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SEKIROの面白さを語る:未プレイの方へ向けた紹介

◆この記事は2019年3月22日に発売されたばかりの新作ゲーム、SEKIRO: SHADOWS DIE TWICEの「本質的な面白さはどこにあるのか」を紹介する試みである。主に、本作を遊んだことのない方へ向けて書かれていることをご理解いただきたい。なお、先日書いた専門性の高い紹介記事とは無関係だが、併せて閲覧していただくと作品の特色などが掴みやすいかもしれない◆

イントロダクション

「SEKIROがおもしろい」「紙一重の絶妙なバランス」「今日は30回死んだ」「クリアを諦めた」「狂人用のゲーム」――あなたはここ最近、SNS上などでこのような評価を目にしたことがあるのではないだろうか。界隈を騒がせる、この「SEKIRO」というゲームは一体どういうものなのか。

本作は、「ソウル」シリーズの血を受け継ぐ3Dアクションアドベンチャーである。ゲームに明るくない方はピンとこないかもしれないが、例えば、古くは「スーパーマリオ64」、近年のものでは「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」などと同じジャンルだ。すなわち、3Dグラフィックで構築された戦国世界で忍び「」を操作し、敵を倒しながら、目的地へと進んでゆく。

今回語るのは、美麗なグラフィック、精神を強く揺さぶる舞台設定やストーリー、アクションの多彩さ……そういったものではない。より本質的な、しかし説明するのが難しい、本作の面白さの根幹部分を紹介させていただく。

『艱難辛苦……

前述した「ソウル」シリーズ、および本作は、同ジャンルのゲーム中でも最上位クラスの難易度として有名だ。実際、本作は難しい。相当難しい。怨嗟が積もる難しさだ。ザコ敵にあるまじき攻撃力、抜け目ない敵配置、こちらの虚を突く罠、死亡すると失われる所持金と経験値……。そういった苦難を乗り越えても、それらはあくまで前座。残念ながら、本作の難しさを語る上では添え物にしかならない。真の鬼門となるのは強力な敵との戦闘、いわゆるボス戦である。このボス戦こそが、難しさの、そして(信じがたいかもしれないが)面白さの根幹となっているのだ。

あなたはこう思われたかもしれない。「ははあ、なるほど。強敵を倒す達成感やカタルシスが魅力なワケね」――ふむ。確かにその通りであるし、間違ってはいない。誰かに本作の良さを一言で説明せよと言われたら、まさにそう口にするやもしれない。だが……本質は少し違うところにある気がする。実際説明が難しいのだが、これを私なりに解説させていただくとしよう。

メキシコライオン

突然だが、あなたの眼前に凶暴なメキシコライオンが出現した。しかもニ頭。やつらは順番に一頭ずつあなたを襲ってくる(一度に二頭がかりで襲われることはない)。あなたは徒手空手でこれに挑み、二頭とも殺さなくてはならない。ただし、あなたは何度でも最初からやり直すことができる

有無を言わさず(ライオンなので当然だ)一頭目が急襲。体長3メートル超の巨体。骨まで震わせる咆哮。よだれまみれの牙と肉片のこびりついた爪。恐怖に圧されながらも最善手を考え始めるが、メキシコライオンの右前足が閃くのが早い。戦闘開始からわずか5秒で、あなたは腹を裂かれ死んだ

アクションゲームでどうしても敵に勝てない場合、考えられる原因は主にニつだ。一つは、レベルや装備が適切でない時。この場合、引き返して経験値やお金を稼ぎ、メキシコライオンと十分渡り合える力をつければよい。あるいは、ライオンをウサギに変えてしまう魔法が見つかるかもしれない。もう一つは、戦闘での勝利が正規の順路でない時。サバンナの端までひた走り、逃げおおせることでゲームが進行するかもしれない。――ではこのライオンはどうか?基本的に、どちらも通用しない。ライオンは殺さなくてはならないし、弱くもならない。なおかつ、現状が最高レベル、最高装備だ。

もうお分かりであろう。ライオンとはすなわち、SEKIROのボスである。

……汝を玉にす』

誇張表現ではなく、SEKIROのボスは大抵そんな感じだ(もちろん例外もあり、二頭ではなく三頭だったり、狂乱アフリカ象が出てくる場合もある)。弩級の威圧感に晒され、実力差も歴然。「何回か挑戦すれば倒せるかな」などといった楽観的思考はすでに塵だ。攻撃はおろか、身を守ることすらままならない。武器を探すが棒きれ一つ無く、筋トレすらさせてくれない。

どうすればいいのだろうか。思案、黙考、熟慮の末、結局は殺す以外に道はないことを悟る。なんと残酷無慈悲な現実か!……こうして、あなたは再びメキシコライオンに挑む。いや、挑まざるを得ない!

今度は右前足の攻撃を予測し、紙一重で回避。偉大な一歩だ!しかしその先は未知。直後に繰り出された喉元への噛みつきに対応できず死!だが再び挑む。先とは攻撃の順番が違うが、想定内だ!ニ連続回避、加えて初めて見る飛びかかり攻撃も回避した!恐怖が薄れゆき、本来の目的を思い出す。すなわち、殺すための空手攻撃を織り交ぜ始めた!死!挑戦!死!挑戦!…………

気がつくと、あなたはライオンの骸の上に立っていた。勝利したのだ。――この本質的な意味がおわかりだろうか?あなたはスーパーヒーローの如く超自然パワーを手にしたのではないし、ライオンの代わりにウサギを殺したのでもない。あなたはあなたのままで、メキシコライオンを斃したのだ。

私は最後のボス(いわゆるラスボス)に50回ほど殺されたところで、ようやく1回勝つことができた。では、もう50回殺される頃には何勝しているだろうか。2回?当然ノーである。もはや1,000勝は固いだろう。「何回やっても勝てない」が、ある境目から突然「何回やっても負けない」に変化する――キャラクターの強さが変わったわけではないのに!――。このゲーム体験を経れば、叫ばずにはいられないはずだ。なんて面白いんだ、SEKIRO!と。

おわりに

「できない」が「できる」になるというのは楽しいものだ。それはSEKIROに限ったことではない。しかし、これほどの落差を経験できるゲーム作品はそうそう無い。『強敵を倒す達成感やカタルシス』を、遥かに超えたなにか――今回述べたかったSEKIROの本質的面白さは、そのあたりにあるのだと感じている。拙い説明であったが、一端でも伝わったなら幸いだ。

ところで、前回の記事では「SEKIROは万人におすすめできない」と述べたので、今回は逆に「どんな人にSEKIROを強くおすすめしたいか」を考えた。……やや無理矢理だが、例えば自己肯定感の低い方(そして改善を試みたいいが難儀している方)には強くおすすめしたい所存だ。「操作キャラが強いから勝てた」「運が良かったから勝てた」「敵が弱かったから勝てた」……いずれも皆無!ボスに勝ったら気兼ねなく自分を褒めることができるぞ!該当する方もしない方も、興味がお有りならばぜひ遊んでみて頂きたい。

SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE Play Station4 / Xbox One / Windows PC

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