県営アパート

16年前。
子ども達がまだ小さい頃、県営アパートに住んでいた。娘が5歳、息子が2歳の頃のある土曜日。

当時、私は週末は子ども達を連れて市内の実家に帰っていた。夫は休みの日はサーフィンに行くので、週末はほぼ母子家庭だった。いつもどおり、実家である酒屋でのんびりコーヒーを飲みながら母とおしゃべりをしていた。

すると、「はい、鈴久です。は?娘ですか?いますけど?」と店番をしていた父が電話で話す声が聞こえてきた。

「なんだかよくわからんが、おまえのアパートの近所の人から電話だぞ」

携帯電話などまだ普及していない頃である。
とりあえず、電話に出てみると知らない女の人が

「県営アパートに住んでいる者ですが、そちらの旦那さんから鈴久商店に電話をして、すぐ帰ってきてくれと電話をかけてほしいと頼まれました。」

❓❓❓

なんで自分でかけてこないんだ?
とりあえず大急ぎでアパートに戻ると…

「ただいまー?」
浴室から夫の声。
「鍵開けてくれー!!」

へ???
浴室に行ってみると、浴室の引き戸に外から鍵がかけられていた。県営アパートの浴室は外から鍵がかけられるようになっている。浴室での子供の事故防止の為だろう。

その日の前日、夫は職場の飲み会があり風呂に入らなかったので、アルコールを抜いてからサーフィンに行こうとして昼から風呂に入っていた。
私と子供たちが実家に出かける寸前に、どうやら息子が浴室の鍵をいじって鍵がかかってしまったのだろう。
風呂から出ようとして鍵がかかっていたのに気がついて、夫はしばらく浴室で悩んでいたが、のぼせてくるし、私たちは何時に帰ってくるかわからないし、思いあまって3階のアパートの浴室のちっさい窓からかろうじて見える駐車場にくる人を必死に探してたまたま歩いてきた人に叫んだらしい。

「すみませーん!!すみませーん!!中妻の鈴久商店に電話してもらえませんかー!!」

浴室の窓は格子がはめてあり、サイズも小さい。そこから懸命に顔を出して駐車場に向かって叫ぶ夫の姿を想像すると…

ごめんねー😂

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