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漆掻きの道具を作るたった一人の鍛冶職人中畑文利さん

漆はウルシノキの樹液です。漆掻き職人さんが道具で樹に傷をつけ、滲み出した樹液を一滴一滴掻き取って集めたものが漆屋さんによって精製されて塗料や接着剤として使われる漆になります。

漆需要が減り続ける中で漆掻き職人さんも減り、全国で40人ぐらいと言われています。高齢化も進んでおり、このままでは国内で漆の生産ができなくなると、漆の生産地などでは危機感を募らせ、少しづつですが若い漆掻き職人さんの育成が始まっています。

漆掻き職人さんの減少は日本の漆を守っていくためには大きな問題ですが、実はもっと危機的な問題があります。それは漆掻き職人さんが使う道具を作る鍛冶職人さんが、わずかお一人になってしまっているという問題です。

漆掻き職人さんが使う道具は漆掻き専用の道具です。

樹皮を削るカワムキ、樹に傷をつけるカキカンナ、樹液を掻き取るヘラなどいずれも特殊な形をしたものです。また漆掻き職人さんによって道具に対する好みも違い、職人さんの要望に合わせた道具づくりが必要になるため、手作りが基本となります。

今回、お一人で頑張っていらっしゃる鍛冶職人の中畑文利さんを訪れる機会に恵まれました。漆の国内最大の産地である岩手県二戸市に隣接した青森県田子町に中畑さんの仕事場があります。

田子町はにんにくの生産で有名で、町の中心部には観光施設のガーリックセンターがあります。ここからほど近い場所に漆を掻いた後に伐採されたウルシノキが何本も立て掛けてある建物があります。

中畑さん、奥様に快く出迎えていただき、作業場の見学とお話をお聞かせいただくことができました。

今回中畑さんが見せてくださったのが、鉄の板からカキカンナとして完成するまでの各制作工程ごとのサンプルでした。

「こうやって見本を用意しておけば、だいたいわかるでしょ。」

見本通りに作れば同じように出来上がる。そんな簡単ではないことはご本人が一番良く分かっていることですが、なんとかこの技術を次に引き継ぎたいという思いを強く感じました。

私が住む秋田県にはかつて能代春慶という伝統工芸の漆器がありました。しかし現在その技術は途切れてしまいました。なんとか能代春慶を復活させたいと取り組まれている方々がおりますが、まだまだ途半ばです。一度失った技を復活させるのは容易なことではありません。

現在、中畑さんの元に通って技を学んでいる方がいらっしゃるそうです。中畑さんの漆掻き道具の制作技術が失われないようぜひ技を受け継いでいただきたいものです。

伝統の技術というものは必ず文化とつながっています。技術が失われれば文化が失われます。文化が失われればアイデンティティが失われます。アイデンティティが失われれば日本人が日本人としてグローバルな世の中で存在意味を失うことになります。そうならないためにも、伝統の技術を守る、中畑さんと出会い、今の日本にはその覚悟が求められていると感じました。

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