10年前に書いた詩

あのひとは 夕方まで泣いていた
わたしは 靴下を乾かしていた


スケートシューズ

吹雪は終わったけれど
街中のアスファルトは
すべて凍りついているから
学校には行かなくてもいい

スケートシューズを取り出して
走り出す少女たち
カーテンみたいに揺れながら
幾つもの色が街に散らばる

朝になればと
あなたは
幾度もその先の言葉を考えて
子守唄みたいにして
遠い海の
波の音を響かせていた
狂気を眠らせるために

冬空はきれいな青で
缶コーヒーは温かい
わたしはあなたにもらった
スケートシューズを履いている

すべりはじめると
波の音が聞こえた


新しい石鹸

悲しい気持ちのまま
電車に乗る
窓に寄りかかると
振動が
言葉と重なり合う

扉が開き
階段を下りる
花屋の店先で
私は
石鹸が無くなっていたことに気づく

薔薇色と薄茶色の石鹸を
紙袋に包んでもらう

微かな石鹸の匂いを感じながら
バスに揺られる
坂道の先には大きな木がある

明日も悲しみは続くだろう
けれど泡のなかの香りは
わずかな希望を残して
溶けてゆく

肌が少しだけ
柔らかくなったような気がした

仮眠

野良犬たちが虐殺される夜
僕はいつもと同じように無力で
月に照らされる血を見る
残された冷たい拳銃を
手にとって虚空に放つ
けれど奇蹟は訪れない

天気予報通りに
大雨が降る
深夜バスには間に合ったけれど
また悪夢はやってくる
けれど僕はまた夜に目を見開くだろう
だから家に帰るまで
少し眠る

私の好きな孤独

私の好きな孤独
それは

雨上がりの
震える紫陽花の傍で
鴉の嘴を
見つめるとき

夜に
黒猫と悲しい少女が
結びつくとき

アスファルトの上で
雨の匂いを吸い込んで
予感に満たされるとき

階段の上にある
喫茶店の窓から
南方へ向かう列車を
眺めるとき

そして
ひとりで死んでゆく時の
畳の温度と匂いも
きっと
わたしの好きな孤独

待ち合わせ

横断歩道を渡るとき
雨の匂いがする
私は
髪を切りすぎたと思う

風は傍らを通り過ぎ
高層ビルから
花束が落下する

燕たちの低空飛行
街行く人々の
瞳の中には
赤い魚が泳いでいる

青信号の点滅
あなたは手を振る

待ち合わせの時間
そして
雨が降り始める


グミを食べて わたしは泣いた 眠たいこども

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