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オヒガンズ・デイリー・ライフ

ドーモ、私のことは「ヤナギ」とでも呼んでください
私はこの小さな庵に住みながら、ある人の元にお仕えしています
「お仕え」といっても、主な仕事は庵の手入れとチャを立てることぐらいなんですけどね

この人が私のお仕えしている人です
私は「センセイ」と呼んでいます
別に私の恩師というわけではありませんが、なんだか自然と「センセイ」と呼んでしまうのです
センセイはこの庵でいろいろなことをしています
カラテ・トレーニングにザゼン、ショドーやチャドー
しかし、センセイが一日で最も時間を使うのは、池を眺めることでした

庭の小さな池のホトリにセイザし、チャを飲みながら水面をじっと眺めるのです
どうやらこの池の水には、センセイにしか見えないビジョンが映るようで、センセイはそれを見つめながら時折目を細めたり険しい顔をされたりします
水面にいったい何が映っているのか、私にはさっぱりわかりません
しかし、センセイにとっては実際大事なことなのでしょう
センセイは今日も池を眺めています
私は、それを傍でじっと見守っていました

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

今日はセンセイにお客様が来ました
バーガンディに銀糸の刺繍が施された装束を纏ったその人は、「サラマンダー」と名乗りました
サラマンダー=サンは大柄で、どこかコワイアトモスフィアを漂わせていましたが、この庵の近所では彼のような人はチャメシ・インシデントなので特に気にしませんでした

センセイとサラマンダー=サンにチャとチャガシをお出しし、キッチンに戻りました
その後何度か二人のいる部屋の前を通ることがありましたが、センセイは何やらお説教をしているようでした
サラマンダー=サンが帰った後、センセイは一際険しい表情で池を眺めていたので、おそらく水面に映るものに何かがあったのでしょう

数日後、センセイは池に映るものについて、少し教えてくれました
池の水には「フジキド」という人と「ユカノ」という人の様子が写っているのだそうです
ユカノ=サンはセンセイの孫娘なのだそうですが、実はカナリ複雑な事情を抱えた人で少し前まで「ザイバツ」というヤバイ組織に囚われていたのだそうです
フジキド=サンはセンセイの教え子で、彼もまた複雑な事情の持ち主なのだそうです
センセイはお二人のことをタイヘン気に掛けていました
以来、私もお二人のことを気に掛けるようになりました
センセイの大事な人は、私にとっても大事な人ですから

それからしばらくして、またセンセイの元にお客様が来ました
真っ赤な装束を着た「アンサラー」という方と青紫の装束を着た「ラプチャー」という二人のお客様は、センセイとカラテの組み手をしました
お二人は積極的な攻撃を仕掛けていきましたが、センセイはそれを全て見切りお二人に決断的なカラテを叩き込みました
センセイの表情は普段と変わりないように見えましたが、その内にはブッダデーモンめいた怒りが見え隠れしていました

あ、一つ大事なことを説明するのを忘れていました
この庵はいつも月に照らされています
「月」というと皆さんは丸いものと考えているようですが、この月は四角なのです
黄金に輝く立方体の月が、私達を常に照らしているのです
ですが、最近その四角い月の周りが妙なざわめきを放っているのです
私は、このざわめきについてセンセイに問うべきか迷っていました

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

以前から感じていた月のざわめきが、一層強くなりました
センセイは池のホトリにセイザし、動きません
「センセイ…」
この人にどう声をかけるべきか、私にはわかりませんでした
「ヤナギよ、今はまだ見えぬ」
センセイは答えました
「なぜ見えぬのか、フジキド達に何が起きているのか、それはわしにもわからぬ。だが、このざわめきが収まる時、全てが明らかになるであろう」
そう言うと、再び池を見つめ続けました
私も黙って傍で見守り続けました

やがて月のざわめきは収まり、水面にもビジョンが戻ったようです
センセイの視線は水面に集中しています
私も固唾を飲み、それをじっと見守ります
しばらくして、センセイは一呼吸ついて顔を上げました
センセイの目からは一筋の涙が流れていましたが、その口元には小さな笑みがありました
センセイが涙を流すところを私は初めて見ましたが、小さな笑みを見た途端自然と安堵のため息をついていました

センセイの涙を見たあの日から、どれほどの時が経ったでしょうか
センセイは今日も池を眺めています
私は庵の手入れをしてチャを立てます
月はあれからも時折ざわめくことはありますが、私達の生活に特に変化はありません
ただ、一つだけ変化はありました
少し前からIRC端末の使い方をセンセイに教えることになりました
私が逆にセンセイになるというのは少し不思議な気もしますが、嫌ではありません
私達の時間は、今日も流れていきます


オヒガンズ・デイリー・ライフ 終わり


◆◇◆人物名鑑◆◇◆

【ヤナギ】
パールホワイトの髪にキモノ姿の中性的な人物で、オヒガンの片隅にある庵でドラゴン・ゲンドーソーの側仕えをしている
彼がモータルなのかニンジャなのかは、本人でさえわからない
IRC端末の使い方を知っているのは確かなようだ


◆◇◆あとがき◆◇◆

ドーモ、kiramaru1025です。

この作品は2月28日の夜中にやってきたモノを形にしました。
本当は222コンに出す予定でしたが、やってきたのが締め切り日の夜だったので諦めました。
しかし、諦め切れずにこうして投稿するに至りました。

タイトルには「オヒガン」と書きましたが、要はニンジャアノヨです。
ニンジャアノヨで生活するセンセイとその側仕えをするオリキャラの日常を書きました。
ヤナギは名鑑では「彼」と書きましたが、性別の区別は特にありません。
彼がモータルなのかニンジャなのか、男なのか女なのか、それはブッダのみぞ知ることなのでしょう。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!
それでは、オタッシャデー!

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