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もう一度400kmブルべを完走するためにやったこと あるいはなんで走るのかについての個人的な覚書



 1.これを書いた人について

そろそろアニメのおっさんキャラがどいつもこいつも年下なのにも慣れたお年頃。
最近の発見:「宝塚っていっても歌の苦手な座組もあるんだなあ」
(何を観たかは内緒)。
近況:軽率にアプリを入れてフランス語の勉強を始めたら、発音とスペリングが脳内で全くリンクしなくて呆然としてる。あいつらどうしてんだこれ。

 2.なぜこれを書いたか

ブルベのトップ of トップについての情報収集は今やそれほど難しくなく、逆に自分にとって要らん情報は意識して目に入らないようにする必要さえある状況だと思う。この辺の考えについては後段で書くけど、いわゆる「坂の途中」にいる人の話はなかなか表に出てこないし記録にも残らないので自分が書き留めておく価値はあるかなと感じた。それよりなにより3年のブランクを乗り越えてまたブルベ完走できるようになったのが嬉しくてつい、という話。

 3.ささやかなブルベ歴

ブルベって何?PBPとは?という説明は大胆に端折る。
お約束のツッコミとして、イエベとは関係ないです。

2015年 初挑戦。いきなりAJ千葉の300km・夜スタートのブルベにエントリ。当然DNF。
 キューシートをA4普通紙に印刷して4つ折りで持参していたのは懐かしいやらかし。GPSサイコンも持ってなかったので道に迷いまくったし雨にも降られて気持ち的には散々だった。悔しかったので同じAJ千葉主催のトライアルブルベに参加。
とてもたくさんのことを教わった。

2016年 初完走。AJ神奈川の200km。
 この辺の経緯は同人誌「ロングライダース5.5」に書かせていただいた
(今だともう入手困難かもしれんけど読んでね!)。

2017年 初SR。
初の600kmブルベがAR日本橋の東京大阪片道だったので、「自転車ですか?東京から大阪まで38時間で走りました」というつかみネタを得る(割と便利)。


600キロブルベ ゴール後の受付&食事会場 運営側のこういう心尽くしが嬉しい
(自分がやる側に回るとそれはそれで楽しい)

2018年 2度目のSR。PBPプレレジ。 
 今考えると力不足も甚だしいところだけど、「年齢が大台に乗る前にPBP間に合わせないと」というのばかりが頭にあってかなり焦っていた。

2019年 PBP本レジならず。
 600kmブルベ3回連続DNFしたのはさすがに悪あがきしすぎ。記念エントリというと運営に怒られるけど、行くだけでも行きたかったな。
 PBPはツアー申込と内金振込まで終えてた。

興津600ブルベをDNFしたときに泊まった宿で出会ったフクロウ。忌野清志郎ゆかりの宿だった


 直後の定期健康診断で最高血圧190超えを叩き出し、即治療勧告を受ける。うっかり知らぬまま渡仏してたら路上でぶっ倒れてたのではないか。
 しばらくは自転車に乗るたびに動悸が酷くなって困ったのを覚えている。

2020~21年 コロナ禍で走れず
 皆さんそれぞれのストーリーをお持ちと思う。仕事も行き詰り気味で、よろしくなかったです。

2022年 200km・300km センテニアルブルベ ともにDNF
 選んだコースが相性悪かったといえばそれまでだけど、走ってなかったとはいえ200kmを完走できなかったのはちょっとショックだった。

2023年 オダックス近畿の秋葉原200(表)完走。クローズ5分前

同 AJたまがわの奥久慈400 DNF。
本当に夜スタートのブルベは苦手。今まで一度も完走したことがない

同 R東京のぐるっと首都圏400kmブルベ完走。

 こうしてみるとブルベ歴だけはそこそこ長いなあ。

 4.落ちたモチベーションの拾い方

このままブルベとか止めても全然良かったのかもしれない。
ただ「なんかやり切ってないな」感があったんだと思う。
立て続けのDNFで逆に奮起したというのもあるかもしれない。
あと2023年に「400km 100周年記念ブルベ」が見えていたことがモチベーションを繋げたのは間違いないだろう。
(ちなみに600kmセンテニアルは2026年頃になるらしい)

また走る=走れるようになった要素は割とはっきりしている。こんな順。

  1. 筋トレ
    筋力は概ね全てを解決する。とても癪だけど運動道楽の分野においてはこれが結構正しいということが自分を被験者として取り組んでみてよくわかった。200kmブルベDNFの後、いくら何でもこれは筋力の衰え(ほら、歳とか)を直視しないとダメだと諦めて近所のエニタイムフィットネスに加入した。エニタイムを選んだ理由は単に店舗数が多いから。
    毎回、何を何回やったかを手帳アプリに記録した。遅々としたペースだけどだんだん負荷を増やせるようになった。週2〜3のペースで通い続け、半年くらい経ったところで都民の森を走ってみたら1年前と比べて明らかに楽に走れるようになっていた。Stravaでも自己ベスト更新メダルが幾つも記録されてたし。
    なんとなくの実感としては、脚だけじゃなくて上半身強化のメニューも適宜取り入れた方がいいと思う。体幹とかに効く。ロングライドの後どこが疲れるって脚もそうだけど背中がバキバキになる、あれは背筋不足だったんだなあ。
    あとトレッドミル。バイクより心肺機能の強化に効くらしい。「ハムスターみたい、プークスクス」とかバカにしててごめんなさい。真面目にやります

    ブルベ復帰のためにわざわざ帰宅後にジム通いを続けている。自転車に乗る気持ちと体力と時間の余裕がなかった期間にもこれだけは続けてた。頭でどう考えようと、ジムにふらふら向かうこの体が、まだ諦めるのはちょっとなあと言い続けている。そういう1回1回の事実の積み重ねが「じゃあもっぺんやってみるか」という行動に繋がったのかな、と思う。

  2. 転職
    これまでに4回転職してる。おかげで「終身雇用と年功序列と定期昇給を前提としたニッポンの労働者は」とかいうたわごとに「はあ?」と言える身分にはなったけど前回の勤務先はリーマンショック後の絶望的な求職期間を終わらせてくれた恩義がある、って事以外はだいたいブラックでクソでどうしようもない職場だった。特に出向先の子会社から親会社に戻された2017年以降は本当に酷くて、どれだけ酷いかについて我が身を振り返る余裕もないほど酷かった。毎朝会社に行く体力気力をゼロから絞り出すため勤務途中の駅のホームで仮眠していた。土日も社用携帯に何がしかの連絡が入り、月1度は土日のどちらか電話番のために出勤し、祝日にも普通に出勤していた。毎晩ビール→日本酒のコースで深酒を重ねて何日かに1回は床で寝て、自炊中の鍋を焦がして家中を煙で燻し、湯船で寝落ちし、フルで休める時はだいたい家で寝倒していた。
    これだけならまあギリギリ耐えられたけど、やっぱり人間許せない一線というものはあるもので、ある日気がついたら勤務中に転職エージェントへ電話して面談の予約を入れてた。
    今の転職先ですか?給料はほぼ変わらず、週の半分はリモートワーク、祝日には普通に休めるし、何より役員上司含め理不尽に罵倒してくることがなくて一人称が「おめェ」「てめェ」じゃなくて、役員に可愛がられる身分でなくても意見具申していい職場というのがこれだけメンタルヘルスに良いものだというのを職を変えてみてつくづく思い知った。自分が長く着てた服がエアライフル用の射撃コートだったんだ、という事に初めて気づいた、という感じ。

    当たり前のことだけど、会社は自分の人生を肩代わりしてはくれない。いくら会社に尽くしても、会社がその思いに応えることは決してない。企業にとってあらゆる人間は代替可能な部品でしかないし、自分の抜けた穴はなんだかんだで勝手に埋まる。久しぶりに転職して、そういう当たり前の事実を思い出すことができた。

    ちなみに前職では送別会の類は一切催されていない。13年勤めたんだけどね。

  3. 2人暮らし
    やっぱりこれじゃね?これだよね?これしかないよね?(何

    長らく続けていた遠距離が諸々の事情で終わり、同居することになった。親元から独立して以来ン十年ずっと一人暮らしだったので、猫ならともかく人間と同居するってどうなんだ、相手に家事を任せるとか21世紀に許されるのか、そもそも自分みたいなタイプの人間が同居とか耐えられるのか、相手がキレて突然出て行ったりしないか、随分考えたし悩んだけど。
    誰かと一緒に暮らすのがこれだけ心地よく喜ばしく毎日が驚きと楽しさに溢れたものだというのを日々実感してる。ホントマジ素敵。愛してる。大好き。
    ジムに今日は行くのかどうするのか聞いてくれなかったらジム通いとか続かなかったし、ブルベの前には自転車乗っておいた方がいいんじゃないかと尻を叩いてくれるし、帰宅後のメニューはうどんがいいか煮麺にしようか確認してくれるし雨でドロドロになった衣類は即洗濯してくれるし、毎日どうでもいい話をできるだけで精神衛生にとてもいい。あまりに恵まれているのでそのうち隕石とか落ちてくるかもしれないとそれだけが怖い。

    一人暮らししてる人には同居人を迎えることを強く勧めたい。
    QoLが異次元に良くなる。そんなことない、という人は本人に問題がある。

 5.これからどうしたいか

  ブルベの年度は11月から始まる。今年度は10月で終わってしまうので間に合わないけど、来年度はSRをまた取りたい。
  次のPBPは2027年。届くかどうかはわからないけど、挑む準備は進めたい。

 6.これから走る人へ、かつて走っていた人へ

 人生の大体のことと同じく、ブルベも特にやらなきゃいけないという類のものではないので他に大事なことがあればぜひそちらを優先させて欲しい。

 ただブルベのいいところは「適度に管理された範囲で」「加減できる範囲で無茶をやって」「ここまでやった、という達成感を得られて」「あの時のブルベは本当に酷かったという経験を誰かと共有できる」ところにあると思うので、職場と家の往復で人生が少しだけ物足りなくなった時のチャレンジとしてとても良い。

 「淡々と走っていればゴールできるのがブルベです」

とスタッフの方に言っていただいたことがある。結局その回のブルベはDNFしてしまったけど、自分のペースでいけばいいのかな、と気持ちがすっと楽になった。

ブルベには参加した人の数だけの違った景色、違う楽しみがある。

高速でルートを回るのもブルベ、あちこち寄り道するのもブルベ、クローズ時刻5分前にゴール地点のコンビニに辿り着くのもブルベ、夜中に雨に降られて「何やってるんだ俺」としみじみ自省するのもブルベ、あるいはDNFして「はてここからどうやって帰ればいいんだろう」と途方に暮れるのもブルベ、あのコースちょっとアレなんじゃない?と小声でぶつぶつ愚痴をこぼしあうのもブルベ、はたまた運営側に回ってスタート地点のブリーフィングで(前週に落車した酷い面相で)「キューシートのX番とX番の間の下り坂、ギャップに気をつけてください超気をつけてください」と説明するのもブルベ、ゴール地点でヘロヘロになってる人に無限にコーラを注ぎ続けるのもブルベ。自分で楽しみ方をどんどん広げていけるのがブルベの醍醐味ともいえるけど、だからこそ事前に予習しすぎるのはどうかな、とも思う。運営団体のサイトに掲出されている注意事項やキューシートの但し書きはちゃんとチェックしておくべきだけど、それ以外の過去のリポートとかはあまり見ないようにしておいて、自分だけの初めての景色を見て、自分だけの経験をして欲しい。

自分もできればそうしたい。

 以前ブルベをやってたけど今はちょっと、という方。

過去のブルベでも付かず離れずのペースで何度も一緒に走って話もして、その後それっきりお会いしてない人が何人かいる。次に会う時は前回のことはお互い忘れてる可能性が大きいけど、そうやって同じ景色を共有できただけの関係であっても、なぜか忘れ難い記憶になることがある。そういうのを積み重ねていけるのもブルベの楽しみの一つだと思うので、気持ちが動いたらまた、いつか。

もしもご縁がありましたら、どこかの道の上でお会いしましょう。

見るはずもなかった景色に出会えるのもブルベの醍醐味

私は見た景色と走った道の話を大事な同居人と分かち合いながら、
走ったことのない道やまだ見たことのない景色のことを考える。

その道がパリに通じていればいいなと思いながら。

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