大学院生って何してるの?-勉強と研究の違い-

はじめまして、きらくと申します。
今回は勉強と研究の違いや大学院生や研究者って何してるの?ということを書いていきます。

進路の決まっていない高校生の方や、院に進むか迷っている大学生の方、単純に「あの人たちって何してるの?」と疑問に思っている方のお役に立てれば嬉しいです。

ただ、僕は数学で博士号を取得したので他の分野の人と異なる部分もあるというのをあらかじめ断っておきます。

勉強と研究の違い

勉強と研究の違いは「勉強は他の人がすでに見つけたことを学ぶのに対して、研究はまだ誰にも発見されていないことを見つける」ことです。

ある先生は「その学問の観察者(observer)から使い手(player)になることだ」と仰っていました。なんかかっこいいので引用しました。
僕は感覚的には研究は創作活動に近いところがあると思っています。
「世界でただ一人、自分だけ(もしくは共同研究者)が知っているもの、考えたものを論文にまとめ発表する」という行為が、
曲を作ったり絵を描いたりすること及びそれを発信することと似ているなと思います。

また、研究は山登りにも例えられることがあります。
勉強は「すでに沢山の人が登頂した山を登る行為」で、多くの場合「山登りのための道も開拓されており、その道も整備」されています。
つまり学ぶ順番が知られていて教科書などが沢山あるということですね。

一方、研究は「誰も登頂したことがない山を登る行為」です。
そして基本的には「道は整備されておらず、自分で切り開く」必要があります。(例外的にすでに登頂されている山の新ルートを開拓する、というのも
研究です。)

この例えだと「研究は勉強より大変なんだ、そんなことやりたくない」と思うかもしれません。
確かに道が整備されていないのは大変ですが、研究の面白さは「自分で登りたい山を選ぶ」ことができ
「その登頂の景色を人類で初めて見ることができる」ことにあります。
小さい山でも「今まで誰も見たことのない風景」を見ることができるのはとても楽しいです。
もしかしたら秘密基地的な楽しさもあるかもしれません。新しいものを発見したり作ったりするというのが研究の楽しさの一つです
個人的には"オリジナルのものを作っていく"創作の楽しさが大きいです。

逆に勉強の大変さもあります。
富士山やエベレストを踏破することは、いくら登頂ルートが開拓されているからといっても大変ですからね。
(もっとも整備されているおかげでそういった自分一人ではたどり着けない景色にたどりつけるのは素晴らしいことです。)

高校・大学生に伝えたいこととしては、勉強と研究は必要とされる能力が多少異なるので、勉強が苦手でも研究は得意の可能性もあるということです。




大学院生(5年間)って何してるの


まず大学院は基本的に修士課程(前半2年)と博士課程(後半の3年)に分かれています。
理系なら修士課程までは半分近くの方が進むと思います。博士課程まで進むのは"修士課程の人の中で10%ほど"でしょう。

大学院では何をしているのか、ということですが
大学院では基本的には「一人で研究できるようになる準備」をしています。修士課程では多少講義もありますが、学部のときと比べると総数は1/3にも満たないと思います。

研究室配属は学部の4年で行われることが多く、卒論として研究成果も発表するため、大学院の5年間も「研究できるようになる準備」をやるのは長いなと思うかもしれません。

ただ卒論のときは基本的に教授が4年生でも登れそうな人類未踏の山(研究課題)を持ってきて、
ある程度の登頂までのルート取り(研究の方針など)もしてくれています。

これが修士課程になると、(指導教員の裁量によりますが)登頂までのルート選びか山選びのどちらかを自分一人ですることになります。

そして、博士課程になると、自分で登りたい山を決めて自分でルートも決めていくことになります。
博士課程が修了して博士号を取得できると、研究者としてある程度自立できるという証明になります。

個人的にこの「山選び」がかなり難しいと感じます。
理由は「今まで誰も踏破したことのないくらい難しく、なおかつ自分の実力で踏破できそうなもの」を見つける必要があるからです。
山を登る前にその山の難易度はよくわからないこともあるので、とりあえず登ろうとして全然太刀打ちできないということもよくあります。

ベテランの研究者になると、登る前に山の難易度をかなり図ることはできるようです(難易度の低い山を学生に紹介したりするので)。
この山選びのセンスも研究者に必要な能力ですね。(そういう意味では僕はまだまだ産まれたての研究者です)

とはいえ、博士課程の学生にとってもこの山選びは難しく、博士課程の3年という時間は長いようで短いのです。
今の自分に登れない山に挑戦してしまい1年過ごして諦めるということもよくあります。
ちなみに僕は「とっても辺鄙なところにある小さい山」と「他の人が"最近"開発した登山道具(ロープとか)を使えばすぐ登れる低い山」を運良く見つけることができました。



もう少し具体的に


博士課程では大体こんなことをやっているというのを並べていきます。

①自主的な勉強、他の人の講演を聞く
これはどのあたりに未踏峰の山があるのかの情報収集の側面と
山登りのための道具を揃えたり上るための基礎体力をつけるようなものです。

②研究テーマを選ぶ、アイデアを出す。
これが先ほど書いた「山選び」です。「実際に登れるかはともかく」どういうルートで登っていくかの大体の方針を決めた段階で研究に入っていきます。
実験系だと実験計画を練る段階ですね。

③研究を進める(実験する)
これは実際に山を登っている状態ですね。途中でルートを変えたり、引き返したり、登るのを断念したりします。

④論文にまとめる
無事、研究成果が出たら(登頂したら)論文にまとめます。これは登頂までのルートを「誰でもわかるように手順化する」作業です。
この再現性がなければ(科学の)研究成果とは言えません。

⑤論文を投稿する。学会で発表する。
これは自分が開発した登頂ルートを他の人へ発信する、言わば営業のようなものです。
自分の研究成果は世界で自分しか知らないはずなのでそれをどんどん売り込んでいく必要があります。

⑥その他事務作業や就活
これは学会出張などの事務手続きや各種援助を受けている場合の成果報告書の作成などが含まれます。

⑦研究室の先輩の手伝い、後輩の指導
これは研究室のない数学科にはない文化ですが、他の分野ではかなり大変みたいです。

このように、博士課程は勉強だけをしているのではないということが伝わったでしょうか。
「専門知識やスキルを身につける」だけでなく「課題発見能力」「課題解決の計画・遂行能力」「プレゼン、コミュニケーション力」を身に着ける場所でもあるわけです。
大手企業などでは後者の能力を当てにして博士取得者を採用をするところもあるようです。


というわけで、今回の記事は以上です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

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