それでも世界は 輝いている 24話
ローゼンティーナから遙か東、太平洋のど真ん中に明鏡と呼ばれる孤島があった。円形に近い、面積二〇〇〇㎢の小さな島だったが、過去数千年、人類の運命を左右してきた島だ。
明鏡は『未来視の巫女』を頂点として、司法、立法、行政、軍事の四部門に別れている。中でも軍事は御剱や魔神機など、下手をすればガイアそのものを滅ぼしてしまう危険な物を扱う部門であり、そこのトップは未来視の巫女が着いていた。
「姫様! 姫様! 由羽、姫様を見なかったか?」
風がよく抜ける縁側に座った篠崎由羽は、各地から送られてくる情報をシグナルブックで見ていた。
ドタドタとけたたましい足音を立て、数名の老人が息を切らせて掛けてきた。皆、薄緑色の狩衣を纏っている。
「乙姫? さあ、知らない……」
長い髪を首元で纏め、白いワンピースを着た由羽は素っ気なく答えた。その目はホログラムを見つめており、老人達には一瞥もくれていない。
「知らない、ではない! 先日の未来視が乱れたのを、お主も知っているだろう?」
「知ってる。私もその場にいたから……」
由羽は溜息交じりに答えるが、やはり目はホログラムを見たままだ。
「で? なに? 私に何か用?」
「姫様を探してくれ! 何処にもおらぬのじゃ!」
「それ、命令?」
低い声を発しながら、由羽は老人を睨め上げる。由羽の眼光に押され、老人達はたじろぐ。
「し、仕方ないのじゃ……。儂らでは、何処を探しても見つからぬし。姫様の付き人であるそなたなら、何処へ行ったかも分かるじゃろう」
「付き人? あんたら、言葉遣いがなってないわね。私は乙姫の友人よ。友達だから、乙姫の側にいるだけ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「儂らの命令が聞けぬと申すか」
「乙姫の付き人に何を言われても、聞く耳持ちませーん」
由羽はブックを閉じると、老人達から逃げるように縁側を歩き出した。と、すぐに由羽は足を止めた。角から黒ずくめの男が現れた。突如として生まれた剣呑な気配に振り返ると、老人達の前にもう一人、体躯の良い男が立っている。二人とも顔にはマスクをしており、表情は分からない。が、僅かに覗く目は強い光を帯びている。
軍部に所属する暗殺部隊の隊員だろう。気配と立ち振る舞いから察するに、ただの人間だ。御剱の繰者ではない。
「………なに?」
不機嫌そうに由羽は眉を釣り上げる。
「この私に意見する気? 返答したいじゃ、殺すわよ?」
由羽は凄むが、二人とも動じる気配を見せない。
「由羽様」
突然、二人の男は膝を折って頭を下げた。
「お願い申し上げます! 姫様を、連れ帰ってきてください!」
「そんなに乙姫が大事? 彼女だって、もうちょっとで二十歳よ? 放っておいてもいいんじゃない?」
「しかし……」
「俺が帰ってきたんだよ。乙姫に話があるんだ」
庭から三人目の人物が登場した。ボロボロの服を着た大柄な男性は、顔を隠していない。髪はボサボサで、無精ひげが生えている。火に焼けた肌に、人懐こい瞳。だが、彼が纏う雰囲気は前後にいる二人よりも遙かに凄みを感じる。
「ジンオウ!」
不機嫌だった由羽の表情が一瞬にして明るくなった。
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