それでも世界は 輝いている 17話

 思った以上に、授業は淡々としていた。当然と言えば当然だが、ヨウはもっとおもしろ事を想像していた。

 教壇に立つ教師もいれば、データ通信だけで授業を行う教師もいた。途中から参加した授業だったが、思いの外理解できた。ジンオウから色々と教わってはいたが、彼がまともなことを教えていたことに、ヨウは驚きを覚えた。

「師匠は、戦闘技術以外にも俺に教えていたんだな」

 教え方が適当だと思っていたが、ジンオウの教え方は要点だけを叩き込む方式だったようだ。普段はおちゃらけていたが彼の立場を考えれば、この程度知っていて当然と言えば当然なのだ。

「ヨウ君、ヨウ・スメラギ君。こちらへ」

 セフィラー学の教師である、エドアルド・ゴモリーがヨウを呼んだ。エドアルドは、禿頭でビア樽のような体躯をしている。丸い顔に小さな鼻眼鏡を掛けている愛嬌のある教師だ。

 ヨウは言われたとおり、下へ降りてエドアルドの元へ降りた。ヨウの肩ほどまでしか身長のないエドアルドは、デスクの上に大きなボール状の物を置いた。大きさはサッカーボールほど。銀色の本体に、毛細血管のような細い網目状の線が入っており、その線は呼吸をするかのように虹色に輝いていた。

「これは、エレメントボール。精霊との相性を調べる装置です。簡易的な物だが、目安にはなる」

 エドアルドが手を翳すと、青い光の柱が装置から立ち上った。

「ここに手を翳すと、精霊との相性が分かります。他の生徒は、入学試験の際に適性診断していますが、ヨウ君はまだでしたよね。さあ、ヨウ君もやって見せてください」

「俺が、ですか」

 ヨウは戸惑う。サイを見ると、サイは目を輝かせてこちらを見つめているし、他の生徒も興味津々といった表情だ。

「そう。君は、昨日の戦いで魔法を使っていただろう? 精霊との相性は良いはずだ」

 エドアルドも期待のこもった眼差しでこちらを見る。皆の視線がヨウに集中する。

 ヨウは断る理由も思いつかず、ゆっくりと光の中に手を伸ばした。光の手前で、手が止まる。

「大丈夫だよ。危険はない」

「………はい」

 ヨウはそろそろと手を翳す。光がヨウの手に触れた瞬間、エレメントボールがヨウの手を認識し、赤い光を照射した。

 冷たくも暖かくもない、ただの光。ヨウは固唾を飲んでエレメントボールを見守った。程なくして、赤い光はドス黒い光に変化した。

「………。おかしいな」

 エドアルドがヨウの手を引っ込める。

「故障かな?」

 エドアルドが代わりに手を翳すと、青い光が赤い光に変わり、白い光か浮かび上がった。

「本当は、このように白い光の高さや濃さで、契約できる精霊の格を知ることができる」

「………」

 皆の視線が痛かった。エドアルドが退いて、もう一度ヨウは光に手を翳す。が、やはり白い光は現れず、エレメントボールが警告音を上げ始める。教室がにわかに騒ぎ始める。

「………ふむ。これは、珍しいケースだ。ヨウ君、君は魔法を使えていたね。素養は素晴らしい物があるが、今のままでは精霊との相性は悪いみたいだね」

 クラスメイトの笑い声が起こる。恐らく、こんなケースは初めてなのだろう。たぶん、こうした素養のない生徒は入学前に弾かれているはずだ。今回は、アリエール達の口利きで入学できたため、この試験はパスできていたのだ。

「というと、俺はソフィアを持つことができないと?」

「現状ではね」

 エドアルドは禿頭を輝かせながら言った。にこやかに笑っているが、その言葉はヨウにとってショックだった。

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