それでも世界は 輝いている 23話
「でも、お二人の意思を確認しないで良いの?」
「レイチェル先輩、俺の意思も確認して欲しいのですけどね」
「ハァ?」
アリティアが不機嫌そうな声を発し、見上げる。シジマはアリティアの視線を受けると、「なんでもありません、はい」と小さく言って、すぐに視線を明後日の方へ向けた。
これは、良いチャンスだった。もし、エストリエのメンバーをバックに付けられれば、これからの行動も幅が広がる。
「あの、それは、俺たちにとって、どういったメリットがあるんですか?」
「メリット?」
「はい」
ヨウはアリティアの瞳を覗き込む。
「それは、以後、アリティア先輩の庇護を受けられると言うことで良いですか?」
「ちょっと、ヨウ……!」
サイが不安そうにヨウの袖を掴んでくる。アリティアは胡乱な眼差しでヨウを見つめていたが、すぐに破顔すると肩をすくめた。
「良いわよ。あなた他の寮と色々と問題を起こしそうだものね。私がバックに付いていると知れば、トラブルも少なくなるでしょう」
「ちょっと、ヨウ! 止めとけ! アリティア先輩の庇護って、それは、お前、俺と同じポジションになるって事だぞ?」
「そうね、私たちエストリエは、気に入った子を三人まで付けられるのよ。良いわ、この瞬間、あなたたち二人は、私の付き人よ」
「えっ………!」
サイは大きな口を開けて止まった。文字通り、開いた口が塞がらないのだろう。
「なによ? 私の付き人がイヤなわけ?」
「いえ、そういうわけでは……」
ヨウの様に目的のないサイは、本音を言えばアリティアの付き人は避けたいのだろう。
「サイ君、悪いことばかりじゃないのよ。付き人になれば、学園での評価も上がるし、もし、研究などので学園に残りたい場合は、優先されるのよ」
「……はぁ……」
溜息とも返事とも付かない言葉を返したサイ。アリティアはそれでも満足と取ったのだろう、視線をこちらに向けてくる。
「ヨウ、それで良い?」
「了解です、先輩」
「よろしい。じゃあ、光輪祭の手続きを」
アリティアがレイチェルを見ると、レイチェルはブックから一枚のホログラムを立ち上げた。ヨウとサイはホログラムに手を翳し、契約は終了した。
光輪祭まで、一月も無かった。
競技の内容は、本番寸前まで誰も似も知らされない。とは言っても、例年通りならば、実技と筆記試験だ。実技とは、戦闘のことであり、筆記とは通常のテストをより難しくした程度のものらしい。
「テストは、僕とレイチェル先輩に任せて」
床を掃除機で吸いながら、サイは自信満々に言う。
「じゃあ、私たち三馬鹿が実技専門って事ね」
アリティアはつまらなそうに言うと、溜息をつきながら窓の外を眺める。
ここはアリティアの部屋だ。五期生であるアリティアは、広い一人部屋を持っている。
ヨウはサイドテーブルを拭きながら、アリティアにいくつかの質問をぶつける。
「光輪祭で勝者には何がもらえるんですか?」
「ん~……なんだったかしらね……」
答える気が無いのだろう、アリティアの口からは溜息が漏れた。
「特に何も無いわよ。寮に点が加算されるだけ」
アリティアの正面に座ってお茶を飲んでいるレイチェルが答えた。
「点?」
「ヨウは知らないんだったね。ローゼンティーナは四つの寮がポイント制で争っているんだよ。一年の最後に、もっとも高得点だった寮の生徒には、各寮の食事や映画などが一週間、タダになるんだ。もちろん、生徒だけではなくて、同じ寮に住んでいる先生や職員も同じ恩恵を受けるから、もう一週間はお祭りみたいな騒ぎになるんだよ」
「へ~、それは凄い。去年は何処が勝ったんだ?」
「学園長のいるブルーレイク・ロッジだよ」
「ま、私には余り関係ないんだけどね。あんなのに騒ぐ気にはなれないし」
「じゃあ、負けても何もないんですね」
ヨウの言葉に、サイとシジマ、レイチェルが反応する。
「いや……ない事はないんだが……」
「あまり派手に負けると、その……、成績に響くんだよね」
「アリティアの様に、面倒だからって手を抜く生徒が沢山いるから」
「なるほど……」
ヨウにとって学園の成績はどうでも良いが、シジマとサイにとっては、死活問題なのかもしれない。
「さて、ヨウ君、サイ君、シジマ君、お掃除が終わったら、訓練に来ましょう」
「はい」
ヨウは答える。
毎日、朝夕とヨウ達はレイチェルに訓練を見てもらっている。レイチェルもサイと同じように実技はからきしのようだったが、レイチェルがいるだけで、ヨウ達は射撃の訓練場などを優先的に貸してもらえる。それもひとえに、アリティアの後ろ盾があるためだろう。
「ヨウ君、今日は負けないからな」
「何か賭けるか?」
シジマとヨウは二人並んで銃を構えた。此処までの成績は、一〇勝四敗とヨウが勝ち越している。
「よし、夕食を賭けよう」
「内容は? 速射? 精密?」
「両方だ。ターゲットを三〇機、早い時間で打ち抜いた方が勝ちだ。ただし、外した銃弾一発に付き、一秒プラスだ」
「了解」
ブザーが鳴ると、ヨウ達は出現するターゲットに意識を集中した。
ヨウ達が訓練している時、遙か離れた絶海の孤島、明鏡では一つの事件が起きようとしていた。
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