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2015年11月の記事一覧
それでも世界は 輝いている 33話
早朝の神宿山には、うっすらと朝靄が掛かっている。
湿り気を帯びた清浄な空気を由羽は胸一杯に吸い込んだ。しばらく、この地には帰れない。もしかすると、これが最後になるかもしれない。由羽は何度も呼吸をして、慣れ親しんだ明鏡の空気で体を清めた。
社の前には乙姫とジンオウ、それから各部門のトップである晃司、玉江、壮一、そして、由羽の妹で鈴守である美和がいた。
「由羽、渡したプレートとブックは持っ
それでも世界は 輝いている 32話
「由羽、どうしましたか?」
「どうもしないわ。それで、私とジンオウを連れてきたって事は、未来視を見せるんでしょう?」
「はい」
神室は様々な光で満たされていた。本来、ここには光源がなく静謐な闇が満ちた空間だった。だが、乙姫の御剱、三千世界に反応し、壁や床に埋め込まれたチップが反応して光を発する。神室は、乙姫が見る未来視を空間に映し出す部屋なのだ。
基本、未来視の力は扱い方によっては世界
それでも世界は 輝いている 31話
御剱だった。この部屋にある武器、全てが御剱であり、繰者の決まっていない物ばかりだった。年に一度行われる御剱見聞では、この部屋に少年少女を招き入れ、自らに適合する武器を見つけてもらうのだ。御剱は高位の精霊が宿っており、精霊に気に入られなければ、どんなに力があったとしても武器を手にすることはできない。精霊に選ばれた人物は、何も言われずとも、自らの手にする武器が分かるのだ。
乙姫は御剱の中を歩き、
それでも世界は 輝いている 30話
「重要なのは、傀儡が動いているという点です」
「あの裏切り者ども、いつか決着を付けなきゃね」
玉江が憎々しそうに吐き捨てる。
千年前の魔神戦争の折、いくつかの御剱と魔神機を持って明鏡から離反した者達がいた。それが、傀儡と呼ばれる集団だ。彼らは、未来視により決まる世界を良しとしない一団だった。繁栄も滅びも、平和も戦争も、全て人の自由意思によって決められるべき、もしそれで人類が滅亡することに
それでも世界は 輝いている 29話
明鏡の中でも、特に特別な区域、神宿山(かみすくやま)は神域とされていた。神様の宿る山といっても、それは旧時代の超越した神ではなく、未来視で世界を導く乙姫が住み、未だ繰者の決まらない御剱がある。地下深くには、いくつもの魔神機が安置されている。
神域は明鏡の住人でさえ、なかなか足を踏み入れられなかった。入れるのは、各部門の幹部クラス、そして、御剱繰者とその相棒である鈴守、そして、乙姫の護衛や世話
それでも世界は 輝いている 28話
「乙姫! こら、起きなさい」
言葉と共に、頭頂部を激しい痛みが襲った。驚いて目を開けると、由羽がこちらを覗き込むように立っていた。彼女の右足が不自然に振り上げられていた。先ほどの痛みは彼女のつま先で蹴られただろう、乙姫が起きなければ、後一発くれようとしていたらしい。
「なあに?」
いつの間にか寝ていたらしい。乙姫は口を押さえてあくびをした。
「ジンオウが来てるわ」
「そうですか」