《研究論》空中ダッシュが持つ空中加速性

問題

原点Oを中心とする2次元の座標系を取り,原点OにロボSVを置く.
SVは1回のダッシュで距離Rだけ移動できる.
ダッシュ速度は一定で,ダッシュ前硬直時間を0とする.

(1)1回のダッシュでSVが到達する点Pが描く軌跡を求めよ.
(2)2回のダッシュでSVが到達する点Qが表す領域を求めよ.
(3)SVにスタンダードを履かせた時のダッシュ移動距離をRとして,ショートバーニア,ロングバーニアを履かせると,それぞれ(1/2)R,(3/2)Rになるとする. ショートバーニア時に最も早く到達できる点Sが表す領域を求めよ.
(4)以上を踏まえて,SVのレッグ選択について意見を述べよ.

解(間違ってたらごめんなさい)

極座標系を採用する.動径r,偏角θとする.
(円の方程式がすっきりする以上に理由は無い.xy座標系で答えて構わない.また,採用する座標系で計算が複雑になることもない)

(1)
点Pは,原点Oからダッシュ移動距離Rだけ離れた点である.
したがって,求める軌跡は,円r=R.

(2)
2回のダッシュで移動できる距離は2Rであるから,
(1)の結果より,求める領域の最外は,円r=2R.
この円の内部に勝手な点Q'を取る(下図).
線分OQ'の垂直二等分線は,(1)で求めた軌跡との交点を少なくとも1つ持つ.その一方を点Aと呼べば,△OAQ'は,OA=AQ'=Rの二等辺三角形である.
すなわち,2回のダッシュで点Q'へ到達するような経路が少なくとも1つ存在する(下図の赤矢印:原点O→点A→点Q').
今,点Q'はr≦2R上の勝手な点であったから,題意を満たす領域は,r≦2R.

(3)
ダッシュ速度は一定であるから,
ある点に至るまでに必要な時間を比較することは,
ある点に至るまでに移動した距離を比較することに同じである.
(2)の結果より,ショートバーニア時に3回のダッシュで到達できる領域は,r≦(3/2)Rである.

(ⅰ)
r=(3/2)Rの領域は,
ロングバーニア時でも1回のダッシュにより,同じ移動距離(3/2)Rで到達できる.
よって,ショートバーニア時に最も早く到達できるわけではない.
(ⅱ)
R<r<(3/2)Rの領域は,
スタンダード・ロングバーニア時では2回のダッシュが必要であり,移動距離はそれぞれ2R,3Rである.
ショートバーニア時では3回のダッシュで到達でき,移動距離は(3/2)Rで最も早く到達できる.
(ⅲ)
r=Rの領域は,スタンダード時でも1回のダッシュにより,同じ移動距離Rで到達できる.
よって,ショートバーニア時に最も早く到達できるわけではない.
(ⅳ)
r<Rの領域は,(ⅱ)と同様に考えれば良い.

以上(ⅰ)~(ⅳ)より,題意を満たす領域は,r<R および R<r<(3/2)R.

(4)
自由に意見を書けば良いです.正解はありません.
(回答例)
ロングバーニアを履くと,ダッシュで到達できる距離が増える.(2)の結果は,ダッシュ距離が伸びたとしても到達できる点が増えないことを示しており,この意味で,ロングバーニアを履くデメリットは無い.
ショートバーニアを履くと,ダッシュで到達できる距離が減ってしまう.しかし,(3)の結果は,到達できる領域の限りにおいては他のレッグよりも早く到達できることを示しており,これがショートバーニアのメリットである.

解説のような何か

【SVのレッグ選択は主題ではない】

 問題を思いついたので出してみました.
 以上は,SVをダッシュ移動だけで動かそうとする時にしか適用できない話です.本問題の設定は実戦的ではありません.実際は,地上移動やジャンプ,ダッシュ後の慣性移動も含めて動かしますから.

 SVは多くの場合でフェザーが採用されます.これは,「ダッシュ距離はスタンダードが最適である」または「ダッシュ距離よりも重要な要素がある」ことを示唆しています.(4)の回答例を見て「ショートが(あるいはロングが)良さそう!」と思っても,錯覚である可能性は高そうです.自分で試したり考察したりするのは大事だけどね!

 では,何が言いたかったのか?
 実戦でも無視できない(と私が思う)事実が1つあります.加えて,私が以前から興味を示している件も1つあります.

【実戦でも無視できないと思う事実】

 問題(2)で示した,「2回のダッシュで移動できる範囲では,どの地点にも到達できる」ことです.自分の2回ダッシュ圏内に相手が居れば,必ず座標を合わせに行けることを示しています.
 実戦では,自分が移動している間に相手も動きます.とは言え,座標を完全に一致させる必要もなく,目的の攻撃を当てられる程度に座標を合わせれば良いわけです.軸を合わせる,なんて言ったりもしますね.

 さて,裏を返せば,「1回のダッシュでは,到達できない地点が存在する」ということです.この事実を意識することで見える退避ルートがあるかもしれません.そもそもダッシュを1回しか持たないロボを使われる(使う)時には,特に意識したいかな.

 実戦で無視できないと言いつつ,実戦で大事だとも思っていません.上述のように「軸を合わせれば良い」のであって,「座標を合わせる必要はない」からです.

【私が興味を示している件】

 これも,別に実戦で大事という話ではなく,単なる私の興味でありますが,
 それは,タイトルの通り,「空中ダッシュが持つ空中加速性」です.
 空中ダッシュを,こんなふうに説明してみましょう.

  (1)直前までの空中水平速度をキャンセルして
  (2)一定時間だけ硬直した後
  (3)スティックを入力した方向へ急加速して
  (4)一定距離だけ移動する.移動中は他の入力を受け付けない.

 私はこれが,空中加速の高いロボの挙動に見えてしかたがないのです.
 下記を付け加えると,そのダッシュは更に空中加速っぽくなります.

  (2)'ダッシュ前硬直が小さい
  (4)'ダッシュ距離が短い(=入力を受け付けない時間が短い)

 問題(3)で示したように,ショートバーニアを履くと,遠くへ移動できなくなる代わりに,近い地点ならば無駄なく素早く移動できるようになります.操作性向上も考慮すれば,正確にも移動できます.これ,ABを代表に空中加速の高いロボが持つ性質です.
 先に述べた「1回のダッシュでは,到達できない点が存在する」ことと合わせて,ダッシュ型ロボでロングバーニアの採用が少ない理由は,ここにあると思います.ロングバーニアを履けば手の届く範囲が増えて良い,という話ではなさそうです.
 個人的に,TFはロングバーニアとの相性が良いと思っています.元々のダッシュ距離が短いですし,仮にダッシュ距離が必要以上に長い状況があっても,空中加速の高さが補います.

 私はよく,相手SSが空中ダッシュで逃げるルートが分からず惑わされます.すなわち,どのタイミングで移動方向が変わるのか分からない.どっちの方向に変わるのか分からない.これって,ABが空中加速で相手を惑わすのに似ています.私が7月に公開した《AB研究論》でも,SSの空中ダッシュは空中加速を兼ねていて,ABとの空中加速差は数値以上に小さい,と書きました.

 ダッシュ前硬直が小さいほど,水平速度が0である時間,つまりベクトル変化に要する時間も小さくなります.公開されているロボ_レッグ性能一覧を参照すると,ダッシュ前硬直は,前述のSSは3であり,SVは2,WSは4と,それぞれ全体で見て小さいほうです.これらロボの空中ダッシュは,この視点でも強力だと思います.

 以上です.

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