見出し画像

「借りの哲学」読書メモ

こちらの本の読書メモです。図書館で借りました。図書館最高。

「借り」があるというと、結構ネガティブなイメージがありますし、それを返さないといけない、、、とも思ってしまいます。

非常にざっくり言うと、「借り」というものが古くから人類社会にはあり、その後資本主義などで「借り」が金銭でチャラにできるようなものになり、それが行き過ぎた結果、現在さまざまな部分で問題が起きている。それを良い方向に持っていくには、この「借り」というものをポジティブに捉え、行動していくことが良いのでは?という本だと読みました。

2021年読んだ本で個人的TOP3に入る「世界は贈与でできている」と通ずる内容です。

本書で言う「借り」とは、
①金銭的な債務としての「借り」
②贈与的なものに対して、心理的・社会的な「借り」
です。

お金の貸し借りの「借り」と、助けられて「この借りは返す!」というときの「借り」や、親や社会などから受けている「借り」などですね。

まず大前提として、私たちは生まれる時から1人では生きてこれず、「借り」を負った状態で人生が始まる。というのを認める必要があります。
ただ、これはネガティブな意味ではなく、事実として「借り」から人生が始まる。というようなものです。

私たちの持っているもので、人から受けていないものがあるだろうか。
ーアウグスティヌス
「借り」というのは、経済や道徳のなかだけで捉え切れるようなものではない。そんな小さなものではなく、もっと大きなものー人類が誕生したときから、存在している「基本的な状況」であり、「普遍的な現実」なのである。
人間はいつでも他者に「借り」がある。また、いま自分がいる社会を作ってくれた、先行する世代の人々、自分の前の時代に「借り」がある。つまり「借り」を考えるというのは、自分がどうしていま、この状態で存在していられるか、そのおおもとに思いをはせるということなのだ。

ここから始まった世界ですが、「借り」には人間関係のしがらみなどの負の側面も多々あります。
資本主義前の世界では、人間のしがらみや、共同体から受けた「借り」をその中で返し、永続的に続いていく、自由になりたい!という思いが出てきます。

そんな中、資本主義、貨幣の発達などでそのしがらみだらけの「借り」を清算できる方法が出てきました。

近代経済における「交換」は互いに等価な物を交換することによって、対等な人間関係を保証するものである。「等価交換の原則」は、単に経済的な均衡をはかるだけのものではなく、お互いに相手の支配から自由でいられる状態をつくるために発明されたものなのだ。

「借り」があっても、それを金銭などの「等価交換」のもので返せばチャラ!素晴らしいですね。しがらみばいばい。

資本主義が「借り」を「負債」に変えることに成功した結果、人々はある意味で、社会のしがらみから自由になった。だが、それと同時に血縁や地縁を通じて受け継がれてきた「誰かに何かを与え、与えられた誰かがその「借り」を返す」という「借り」のシステムを失うことになった。それは「人間関係」を失うということである。

でもこの資本主義の交換の論理が強くなりすぎて、金が全て!みたいな世界になってしまったのが今である。と。

面白かったのは、負債が道徳を作ったというニーチェの「道徳の系譜」の紹介です。え、道徳って負債から生まれたの?と。

まず、負債という返さないといけないものがある。「借りたものは返す」ということを覚えていて、それを返すということで、「約束を守る存在になる」と。約束を守るということは責任を持つということであり、それが道徳の基礎になった。と。まあ、、わかりますが、、、

でもこのロジックで言うと、借りたものを返せない人は非道徳になってしまったり、金さえ返せばいいんでしょ、という世界観になりそうですし、実際今の社会でもそんな感じですよね。

努力とお金を得ることがイコールの世界でもない時代に、この金が全ての論理はいろいろ社会を生きにくいものにしてしまいますね。

「負債」が道徳を生み出し、支配と隷属という人間関係をつくる社会から解放されるために、貨幣経済をもとにした資本主義を発明し、「負債」や「借り」を清算するシステムを編み出した。ーと思っていた。ところが、その資本主義が「行きすぎた個人主義」と歩みをそろえた結果、「借り」に支配される世の中をつくりだし、一気に返済を迫られている状況だからである。

ただ、最初から資本主義も金が全てなどではもちろんなかったです。

資本主義が生まれる社会的な要件として、「宗教改革によって、個人が教会を中心とする宗教的な共同体から自立した」ことを挙げている。こうして誕生した個人がプロテスタント的な倫理観によって勤勉に働き、また禁欲的な生活をした利益を貯蓄し、再投資に回した結果、資本主義が発展したというのである。
ここでの個人の自由は「利益を追求するためなら何をやってもよい」という自由ではなかった。プロテスタントの人々は職業は神から与えられたものー天職だとして、時間を無駄にせず、真面目に働くことが神に仕えることだと考えた。

神ありきの資本主義、個人の自由だったのですが、どこかでその資本主義パワーのブレーキ役だった神が気にされなくなってきました。
そういえば、「神は死んだ」と言ったのもニーチェなので、現代における行き過ぎた資本主義を辿っていくとニーチェにたどり着くのかもしれないですね。

道徳>経済。だったものが、経済>道徳。になってきた感じですね。

その先が新自由主義で、格差拡大、周辺諸国からの収奪、自国民からの収奪、そして地球環境からの収奪、と止まらなくなり、その限界点で方向転換をしないといけない、というのが、まさに今で、グリーンニューディールとかSDGsとか、そういったものが出てきているのですが、果たしてそれで止められるものなのか、、、

資本主義の交換の論理で、お金が全てという人が出てきて、それを本書ではセルフメイドマンという自律した人間。というのでマイナスに捉えています。

セルフメイドマン(借りを認めない人々)
人の助けを借りずに自分のことは自分でする人間。
自分で自分を作り上げる人間。全ての借りから自由になりたい。
成功を収めると「生まれた時から持っているものを利用しないで、現在の成功を手に入れたのだから、これは全部自分の力で成し遂げたものだ。私には「借り」などない。」という全能感を持つ。

ただ、人間が「借り」から人生スタートしている大前提を考えると、借りなどない、というのは嘘になりますし、この全能感を持ってしまうと弱者の気持ちを考えられなくなり、自己責任論者になっていくのでしょう。メンタリスト。

借りを認め、それを人や社会に返していくことで人は本物の自律を手に入れることができる。

そういうことなんでしょう。

また、借りを否定するセルフメイドマンと同じように、借りから逃走するオポチュニストもマイナスで捉えています。

機会主義者(オポチュニスト)(借りから逃走する人々)
信念はない。「機を見るに敏」機を利用して自分が儲かればそれで良い。
ネットワーク社会から多くのものを借り、それによって自分の利益をはかりながら、その「借り」を返さないというかたちで生き続ける。

こっちの方が多そうですね。でも著者は自己は他者との関わり合いの中で生まれてくるもので、こういった自分がすぐに逃げられるような浅いネットワーク社会にいると自分の内面も空虚なものになっていく、と言っています。

そして、その空虚さを埋めるために快楽に逃げ、依存症とかになっていく、、、と。

じゃあどうしたら良いのか、というのに対して、

大前提として、「借り」から人生が始まっているということを認めた上で、その借りを下の世代に返していくことだと言っています。

「借り」というものは人間関係を反映したものだ。人間関係は複雑である。だから「借り」もまた複雑である。誰かからどのくらい「借り」を受けて、きちんと精算したかどうかなど、分かるものではない。だったら、「借り」は「借り」として受け入れ、世の中の役に立つかたちで返していけばよい。もし「借り」から自由になりたいと思ったら、その方法が一番である。要するに、上の世代から受けた「借り」は下の世代に返せば良いのだ。
いま私たちに必要なのは、そのようにして「借り」を伝えていくことである。そういう発想がなければ、祖先たちが残してくれた地球環境ー上の世代が手をつけずにいてくれた私たちへの「贈与」である地球環境を下の世代に伝えていくこともできない。

世界は贈与でできている、にもあるように、私たちは多くの「借り」を地球から、過去の世代から、受けてきています。この実感がスタート。

そしてその借りを下の世代に向けて返していきたい、という気持ちに自然になってくる(といいですね)、そして自分の人生で返していく。

アンサングヒーローという言葉が大好きで、その栄誉を歌われることのないヒーローです。今の世界があるのは、過去に数えきれないアンサングヒーローがいて、その人が自分で自覚もないままにやったことが、この世界を作り上げてきている。そうだとしたら、自分もそのアンサングヒーローになりたい。

それは特別なことでもなく、ちょっとゴミを拾うことかもしれないし、ちょっとした手助けをすることかもしれないけど、いい意味で背負っている「借り」をそういった目に見えない形で返しているんだ、という想いを持ちながら日々生活をしたら、それは自分にとっても世界にとっても素晴らしいことなんじゃなかろうか、そう思ってしまいます。この「借り」とか「贈与」とか「アンサングヒーロー」。僕の中ではとても腹落ちしやすい考えでとても好きです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?