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街の報せ

私達が落語会を開催している新潟という街に沼垂という地域があって、
そこに写真集を集めた小さな本屋がある。
BOOKS f3というその店は一人の若い店主がやりくりをしている。

出会った頃、私の地元の出身者に牛腸茂雄というカメラマンがいて、
そこの実家が彼の作品で溢れかえっていてやばいという話をした。
彼女はもちろん牛腸茂雄のことを知っていて、話をふったこちらが説明を受けたほど写真を愛していて知識も豊富だった。

悲しいかな新潟は芸術後進県だ。そんな県で写真集に特化した本屋を立ち上げるなんて心意気がどうかしているとお店をやると聞いたとき、かなり心配した。市内で本屋をやっている店主からも「やめたほうがいい」と言われたそうだ。

彼女は客足の少なさに腐りながらも前をできるだけ向くようにお店を続けていた。
数々の写真展を開き、少しでも写真の魅力を知ってもらおうと時に強気に、時に気弱に、なかなか精力的に営業を続けていた。

頻繁に通っていたわけではないし、写真集を購入したと言っても10冊にも満たないくらいしか彼女に貢献をしていないが、
それでも彼女のおかげで、自分の好きな写真や写真家の方向性を知ることができ、心を打ち明けられる写真家の友人を作れた。
身の丈的にどう?と思いながら石川直樹の写真を購入したり、
落語会の撮影もお願いした。そして何よりも彼女の「写真が好きだ」というひたむきな思いに胸を打たれた。
大きな道路から店の明かりが見えるたびに立ち寄らないときでもなんとなく気にかけていた。

そんな彼女が5年続いたお店を6月いっぱいで閉めるという。
念願だった牛腸茂雄展を無事に終了させ、
「新潟の街について」様々な人達が、思いや思考をWEBサイトに寄稿した「NIGATA NATIVE NAVIGATE」というZINEを発行し終えたタイミングで。

一報を聞いたとき、本当に?とやっぱりという気持ちが綯い交ぜになり、
残念なんだけれど少し安堵するような不思議な気持ちになった。
彼女はまだ若い、お店に縛られることなく生きてもいいのではないだろうか?と他人の人生なのに思ったこともあったからだ。

残念、とか、もっと行っておけば良かったとかは言わないでおく。

私は私なりの回数あのお店に通った。
そして今後も購入した写真集を慈しんでいく。
それまで、よくわからないジャンルだった写真を
「面白くてこの世に必要なものだ」と強く教えてくれた小倉ちゃんに
ただただ感謝するだけだ。

久しぶりに落語会スタッフのnoteに書き込む内容がこれとは?とも思ったが、±3の落語会の専属カメラマンは彼女しかいないので、
この気持は残しておこうと思いたち、
夕飯の支度をそっちのけでパソコンに向かっている。
これを書き終えたら日常が待っている。

彼女が私に教えてくれた好きな写真の方向は
「眼の前の風景を愛している」と感じるものだった。
改めていうが、素晴らしい審美眼の持ち主だ。
彼女のこの先に幸多からんことを祈りつつキッチンに帰ろうと思う。

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立川談吉さん・立川志の太郎さんを新潟県下にお招きし、「定点観測」という落語会を開催しております。次回は2019年12月、談吉さん・志の太郎さんの二人会を新潟・長岡にて開催。ゲストはナツノカモさんです。