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産業史から俯瞰するデザインの役割

デザイン・イノベーション・ファームのTakramが毎週2本のペースでお届けしているポッドキャスト「Takram Cast」。今回は、刻々と変化を続けるデザインの役割について、Takramの田川と佐々木が、産業の歴史からデザインの役割を俯瞰します。

( トークの導入部分は省略して、佳境に入ったあたりから抜粋 )

田川 面白かったですね。僕も勉強になりました。で、ちょっとそれに関連する話なんだけど、デザインがどういう風に歴史の中で移り変わってきたかっていう話とか、経営的なところとかビジネスやってるような人から見たときになんでデザインの重要性っていうのが叫ばれるようになったのかを説明してくださいとかいうこと言われることも多い。

今日はデザインの歴史を少し整理をしながら今を俯瞰するような議論が出来たらいいかなと思います。実は、今オズと一緒に年表のようなものを見てるんですけど、この年表が、僕が一年半ぐらい前にあるカンファレンスで説明をするために作ったもので、これはそのまま今回公開しちゃおうと思うんですけど、縦軸に線が引いてあって上が過去で下が未来ですね。上から、各年代ごとにどんな技術というかテクノロジーが出てきて、しかもそれが世の中を牽引していた時期っていうのがそれぞれ上から順に書いてあります。

ここでは、だいたいジェネレーションっていうか世代を6世代で分類して書いてあります。今現在っていうのが一番未来側なので一番下に書いてある。上から行くと、一番上はハードウェアって書いてあるんですけど、1900年くらいまではハードウェアって書いてある感じですね。なんでハードウェアかというと、有名な映画のシーンで2001年宇宙の旅で猿人があのシーンだと骨を手にして地面を叩くシーンがあるんだけど、あれがまぁハードウェアの象徴的な描写で。生き物って生暖かいというか柔らかいから、あそこはね、攻撃っていうのがメタファーになってるけど、自分と相手方、グーパンチで相手を殴ると自分の拳も痛むんだけど、骨っていう硬いものを手にとって相手を打撃すると相手にダメージを負わせつつ自分は無傷でいられる。かつ自分の筋肉から取り出せる打撃力を棒を介在させることで倍加させることができる。これが多分ハードウェアで。

何かっていうと人間が自分自身を能力拡張させる、機能拡張するっていう意味でそういうものを使ったよっていうのが道具の起源だよね、と。デザインって結局道具とか環境を作るところに必要となるスキルなので、この年表は道具とか環境の歴史っていうふうに読み替えてもいいのかな。だからハードウェアを構成しているのは人間が手に取れるサイズのものだとだいたい道具って言われるし、人間の体の外の話だと、家とかいわゆる環境やインフラも含めて環境側の話になっていく。そういう意味では数万年前に人間が棒使ってみたいなところから火を使うっていうことができるようになったりとか、道具と道具を組み合わせて別の道具を作るというメタクリエーションができるようになったりとかで、人間が生物的な進化を万年単位でかけてやるよりもものすごくスピーディに人工物を発展させることで、生物的進化とほぼ同じようなことを実現してきた。そこの能力がほかの動物に比べて飛躍的に高かったんでこれだけ地球上で繁栄したっていうことかなと。

で、だいたい第一次大戦と第二次大戦の間ぐらいまでは、そういう意味ではハードウェアをうまく作ることができた国っていうのが覇権を誇ってたっていうのがあって、一番象徴的なのはイギリスで。ハードウェアの時代の一番後期に出てきたのがいわゆる動力革命で、ここに水蒸気とか機関車とかもそうだけど蒸気機関っていうのの発明があったりして、産業革命が起こって自動織機が出てきて大量にもの作れるようになって、ここで家内制手工業とかから全部機械化の時代に到達していくという時代ですね。それがだいたい大戦前後まであった。だから武器兵器も基本的にはそこの延長線上で、メートル法っていうのを発明したのはフランス人なんだけど、図面っていうものを発明したのもフランスだったり。寸法がなんで出てきたかっていうと、大量にもの作るためにいわゆる採寸の規格が必要で、っていうような話ですよね。だからヨーロッパが中心なんですよね。基本は機械化の時代の主役っていうのはハードウェアの世界は基本ヨーロッパ中心に進んできた。

時代が変わったのが大戦の、まぁ二次大戦の前後くらいかな。ここにエレクトロニクスっていうのが出てきて、ハードウェアとエレクトロニクスを組み合わせることでハードウェアの能力がさらに精密化するとか、いわゆる計算可能な状態になったっていうのが一個パラダイムシフト。よく言われる話なんだけど、それまで国と国が戦争するときに大砲ぼかーんって撃って相手に当てるみたいなところで砲手の技能がすごい大事で、その時代においてはそういう練度の高い砲手がいる国っていうのが強かったんだけど、エレクトロニクスになって自動制御が入ってくると、ボタン押すと勝手に当たるから、練度の高い砲手っていう文化が廃れて、エレクトロニクスをどうやって駆動することができるかっていうのがいわゆる国力を決めたみたいな話があってね。そこからエレクトロニクスの時代が1980年ぐらいまで続いて、後半になってくるとこれが民生危機に降りてきて、ここでメカトロニクスとかいう話ね、メカとエレクトロニクスの融合体っていうのガコンシューマー製品でも出てきて、ここに日本は一時代を築く。

佐々木 スカイプとかわかりやすいですよね。

田川 ああ、スカイプとかもそうかな。

佐々木 なので、ハードウェア・エレクトロニクスが無くて、電話キーが行っていたのをソフトウェアとネットワーク、P2Pとサービスで実現したっていう感じですよね。

田川 ここになってくると、UIデザインとかもそうなんだけど、サービスが入ってくるので、サービスの体験というのがどうなっているかっていうのでビジネスの優劣が決まってくる。ここで初めてUXデザインっていうのが言われ始めた感じだね。ついこの間まで、2015年ぐらいまでは第五ジェネレーションで、今まで登場してキーワードとして出てきてるハードウェア・エレクトロニクス・ソフトウェア・ネットワーク・サービスのこの5個を全部包摂したような企業ね。まぁアップルはもともと第三ジェネレーション、ハードウェア・エレクトロニクス・ソフトウェアな会社なんだけど、iTunesとかでネットワークサービスをアドオンして第五ジェネレーションの形式になりました。グーグルはもともとソフトウェア・ネットワーク・サービスレイヤーの会社だったんだけど、モトローラ買収したりアンドロイドを介在させてハードウェアメーカーと水平分業を構築してこの5つを装備しましたと。アマゾンも第四ジェネレーションなんだけど、自社でいろいろ作れるようになって第五ジェネレーションに落ちてきましたと。

佐々木 キンドル作ったりね。

田川 キンドルね。日本企業はほぼほぼ第二ジェネレーションにいるんだけど、こっからその第五ジェネレーションに飛べた会社と飛べてない会社があって。ちょっと未来は今まで出てきてるハード・エレクトロニクス・ソフトウェア・ネットワーク・サービスの5要素に加えて、データとAIっていうのが次の競争ファクターになってて、これが第六ジェネレーションっていう感じになっている。どのジェネレーションのモデルでいわゆる企業とかのもの作ってるのかっていう話で必要とされるデザイナー像っていうのも全然違ってくるよねっていう話がこの年表から見えると。

この前のジョン・マエダさんの3つのデザインの職種の「クラシカルデザイン」、「デザインシンキング」そして「コンピューテーショナルデザイン」っていう3つの整理もこの年表の上でいくとある程度符合があって、上のハードウェアの時代とハードウェアプラスエレクトロニクスの時代で仕事としてもかなり濃厚に求められるのはやっぱりクラシカルデザインかなという感じ。真ん中のソフトウェアが入ってくるところからサービスっていうのが乗っかってくるところの間だとデザインシンキングとあとインターフェースデザインとかインタラクションデザインとかいわれる、まぁエクスペリエンスデザインだね、も含めてっていうのが、3・4・5の世代。

コンピューテーショナルデザインはさらにもうちょっと未来で、それにプラスデータとかAIとかアルゴリズム的な話がさらに強まってくるとこの第六世代以降になってくる。やっかいなのは、今の僕らの世界を構成しているのはこの6個のジェネレーションのどこかでスタートした企業だったりするんだけど、本当はやってるビジネスのネイチャーが違う6個のカテゴリの人たちが入り乱れてやってるから、私はデザイナーですっていったときもその6個のカテゴリーのどこに属しているのかでやってる仕事も全然違うし求められるものも全然違うっていう感じかな。

なので、そういう意味だとよく言われる「経営とデザインが近くなり始めたよ」とか、企業活動におけるデザインの重要性が日増しに増してますみたいな話がされるときには、基本的には3・4・5のジェネレーションだね。特に4・5かな。サービスが企業の活動の中のすごいこう需要な話になってきたときにエクスペリエンスっていうのがどうしても出てきちゃうから、エクスペリエンスを上手に調整するとかそれこそデザインすることができたのがたまたまデザイナーっていう職種の人たちだったっていう。

ただ、クラシカルデザインの世界だと、いわゆるデザインの効能って昔から言われてるし、経営者たちもそれはわかってるんだが、デザイン自体が例えば技術ロードマップを書くようなファクターにはクラシカルデザインの世界ではなってないんだよね。いわゆるBとT。BTCモデルでいくとBという話になってきて。だけど、第四世代と第五世代のレイヤーの人たちだと、UXがどうなるかっていうことを実現するために技術ロードマップ書くじゃないですか。

佐々木 そうですね。

田川 決済の仕組みとかもそうだし。だからいわゆる3~4年とか4~5年の中期・長期の計画にUX観点が濃厚に入っちゃうっていうので、経営的なマターにデザインはなってくる。そもそもユーザーが増えるとか減るとか売上みたいなところも、4世代目、5世代目になってくるとインパクトがけっこう多いので、デザインが大事という話にはなる。

ただ、デザインが良いとものが売れるねっていう話はクラシカルデザインの世界でもけっこう起こっていたので、ものが売れるんですっていうことだけだと経営とデザインの距離が近いってのは説明しきれないかなと思っていて、この年表で行くとやっぱり4世代目と5世代目になってきて、よりデザイナーが経営に近くなってきたっていうことが言えるのかな。

佐々木 第六世代をスナップショット的に見ると、ハードウェア・エレクトロニクス・ソフトウェア・ネットワーク・サービス・データ・AIってあって、それぞれ大事だなってのがわかるんだけど、いつできた会社かとか、どういう祖業を持っているかとかによって重心のかけ方が全然違いますよね。今日本で強いと言われている企業は終戦後くらいから技術のベースがあって、それをこう上手くビジネス化していった感じで、ハードウェア・エレクトロニクスの会社が多い。そういった企業もソフトウェア・ネットワーク・サービス・データ・AIとかやっているけど、なんとなくそれを付加的な、いわゆるアディティブなものとして取り扱っている傾向がちょっとあるなと思っていて。一方で第五世代・第六世代ぐらいの会社というのは、ハードウェアもやってるしソフトウェアもネットワークもやってるけども、起点がソフトウェアとかにあってハードウェアとかをアディティブなものとして扱ってたりしてて、けっこう重心のかけ方が会社の成り立ちによってだいぶ違うなっていうのがあるからね。

田川 そうだよね。やっぱり強みって結構歴史の中で蓄積されていったりもするので、そういう意味だと今IoTって言われてるムーブメントって何かなとか思うと、第二世代の人たちが第五世代に無理くりジャンプしようとしている風に見えるんだよね。

(この後も延々とつづきます(-_-;)つづきは↓からどうぞ)

Takram Castは、Takramのメンバーがデザイン・テクノロジー・ビジネス・文学などの話題を幅広く展開するポッドキャストです。毎週月曜日に2本のペースで公開しています。

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