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金魚の発生学実験#07 ゾウリムシを増やす。

1. 導入

水生動物学研究室主宰の太田欽也です。今回も皆さんに金魚の発生学実験について解説してゆきます。このNoteはYoutube動画のテキスト版です。動画を見る前や見た後で内容をさらに詳しく文字で確認したい人向けです。しかし、動画の方が圧倒的に情報量が多いのでそちらを先にご覧になられることをお勧めします。下のリンクから動画を見ていただけます。10分程度の動画で少し長いので目次をみて飛ばしてみていただいてもかまいません。では、解説してゆきます。
https://youtu.be/7M4JIqNvPO0
 前回は金魚の孵化仔魚の観察方法についてでした。今回は、それらの孵化仔魚に与える餌料生物の一つ、ゾウリムシの管理の方法について解説してゆきます。


2. エサあれこれ

金魚に餌を与えるときに配慮しなくてはいけない点は二つあります。一つは「水を汚さないこと」そして、もう一つは「水槽の中のそれぞれの個体にちゃんと餌がいきわたるように与えること」です。特に、孵化した金魚はまだ小さく水質の悪化や栄養不足で簡単に大量 に死んでしまいますので上の二つの点を配慮しなくてはいけません。
 また、仔魚から稚魚に至るまでの過程で体の大きさがドンドン大きくなっていきます。なので、発生段階に応じて与える餌も選んでいく必要があります。大きな稚魚や成体であれば大きな餌を与えても問題なく食べます。でも、孵化したばかりの小さな仔魚は口も非常に小さいので大きな餌は食べられません。なので、このように細かい粉末の人工飼料や生きた微細なプランクトンを餌料として与えます。人工飼料は容易に購入できますし、管理も非常に簡単です。そして、人工飼料だけでも上手に飼えば金魚は十分に大きくなってくれます。
 しかし、生きたプランクトンを餌として与えるメリットは沢山あります。なので、我々の研究室ではゾウリムシやアルテミアなどを餌料として飼育して金魚に与えていますし。そして、実際、我々の論文の中で登場する金魚の仔魚たちはゾウリムシやアルテミアを食べて大きくなりました。とくに、ゾウリムシは上手に増やすことができると孵化して間もない仔魚を育てるうえで便利な餌料生物になります。

3. ゾウリムシ

ゾウリムシは淡水にすむ非常に小さな単細胞真核生物です。この生き物の大きさであれば孵化して餌を食べ始めたばかりの仔魚でも食べることができます。また、もともと、淡水の生物であるので、密度が低ければ、金魚と一緒に水槽の中でしばらく生きています。よって、水替えが難しい小さな仔魚の餌料生物として重宝します。水槽の中の仔魚の数が少なければ、一日や二日、餌を与えなくても金魚の仔魚たちは水槽の中のゾウリムシを徐々に食べて大きくなっていきます。なので、どうしても研究室に出てこれない時などは、この生き物を餌として用いるようにしています。
 さて、このゾウリムシを増やす方法をまずはザックリと見ていきます。おそらく、インターネット上に金魚やメダカの愛好家の人たちがいろいろな方法を紹介しているかと思います。私もそういう情報を参考にさせていただいて、最終的にたどり着いた方法は、この「粉末の青汁」を用いる方法です。あれこれやったんですが、結局これが管理が一番楽だったんですよね。
 20Lぐらいの容器を準備して、その中に青汁を溶かして入れます。使う水は水道水を直接入れていただいて構いません。そこに、ある程度の密度のゾウリムシが入った水を入れる。気温や容器の大きさや容器の置き場所、青汁の濃度にもよりますが、2日から4日経つとゾウリムシの密度が上がってきます。なので、この『ゾウリムシ水』を一部ディッシュにとって顕微鏡で確認するか、透明の容器に入れて肉眼で水の状態を確認してください。よく見ると、小さな粒粒が見えるはずです。そうしたら、サイフォンで中のゾウリムシを吸い上げて別の容器に移して金魚の仔魚に与えます。
 一連の流れは見ていただいた通りなのですが、ちょっと、説明が簡単すぎたかもしれません。この説明だと「いったい何匹の金魚のためにどれだけのゾウリムシが必要ななのかわからない?」と思われる方もおられるかと思います。たしかに、ご自身で試されたい場合、ちょっと参考にならない説明でした。なので、おおよその目安として参考にしていただくために、私たちの研究室での例を述べます。
 産卵期には毎週100尾から500尾程度の孵化仔魚を扱うことになります。そして、これらの孵化仔魚のために20Lの容器を4つ準備して、2日に一回程度、それぞれのゾウリムシの密度を確認しています。これらの容器は空調の効いた室内に置いておきます。なぜ、4つも容器を準備するかというと、厳密に管理して仔魚が孵化するタイミングに合わせてゾウリムシを増殖させるのが非常に難しいからです。
 でも、4つあればどれかの容器の中でゾウリムシが安定的に増殖してくれるはずです。なので、ちょうど、仔魚が孵化して餌を食べ始めた時に最も増殖している容器からゾウリムシを採集し餌として用います。これら4つの容器のうち、毎日どれかの容器で安定的にゾウリムシが増殖している状態が保たれていれば、100尾程度の孵化仔魚の早い時期に与える餌を賄うことができます。ゾウリムシを与える目的は乾燥飼料やアルテミアを与えたくない場合や、死にやすい孵化仔魚の時期を早く乗り切ってために使うエサなので大きくなってしまえば必要ありません。なので、必要な時に安定的に増殖してくれればいいのでそれほど莫大に必要とはならないので、おおよそ、この容器の大きさと数でいままで問題ありませんでした。
 でも、臨時にどうしても大量のゾウリムシが必要場場合があります。そのような時は青汁の濃度をあげてゾウリムシを培養しています。そして、温度を25度以上にあげて保つとよりたくさんのゾウリムシが得られるようにしています。以前にお見せした動画のように、受精卵は4日ほどで孵化します。そうなると、人工授精の結果から4日後に孵化するであろう仔魚の数は大体予測できます。なので、この予測に基づいて事前にゾウリムシが大量増殖する環境を作ってあげるように工夫しています。
 更に補足しておきます。この容器ですが、外から見てもわかるぐらい、内側に藻類がびっしりついています。理由はよくわからないのですが、このような環境を保つ方ががゾウリムシが安定して増えてくれるんです。といいますか、正直に言ってしまうと、ピカピカのガラス容器の中で厳密にゾウリムシだけを綺麗に培養する方法も試したんですけれども、自分たちの研究室では、あまりうまくいかなかったんです。そして、試行錯誤していくうちにこういう管理の方法にたどり着いた次第です。
 なので、この容器の中にはゾウリムシ以外の微生物もたくさんすんでいます。そうなると、容器の中にいったい何が増殖しているかがちょっと不安になってまいります。なので、自分たちは、好ましくない微生物が湧いていないかどうかを確認するために、水の濁度や色に注意するようにしています。たとえば、青汁を入れたばかりの水はこのような緑色っぽい色をしています。この青汁がそのまま残った状態の緑の水を金魚に与えてもそもそもまだゾウリムシが増殖していないので意味がありません。
 あと、時間が経つと藻類の影響で水が緑色になることがあります。この場合、中が濁ってゾウリムシが確認しずらいですが、良く調べるとちゃんと中にゾウリムシが増殖している場合があります。この場合は餌として与えています。いずれにせよ、容器の中にで増殖している微生物が何者であるのかをちゃんと確認して餌として与えるように気を使っています。
 そして、すべての仔魚に十分な数のゾウリムシがいきわたるように午前中にゾウリムシ水を入れた水槽は午後、あるいは次の日に、ゾウリムシの密度を確認するしています。そして、ゾウリムシが少なくなっていたら、水を汚さない程度にゾウリムシ水を加えるようにしています。
 さらに、大事な注意点している点は必ず容器に蓋をすることです。蓋の種類は通気性を保ちながら、外部から飛来する昆虫が入らないようにできれば何でも構わないのですが、とにかく蓋をするようにしています。どうも、蚊はこのようなゾウリムシが発生するような水が大好きなようで、油断すると必ずどこからともなく飛んできて卵を産み付けに来ます。そして、蚊が研究室や飼育室内に飛び交い始めると非常にめんどくさいことになりますので、この点は気を使っています。
 ここで、まとめておきます。私たちの研究室で気を使っているのは。
1:容器は複数準備する。
2:ゾウリムシの増殖は計画的に。
3:水の濁度や色に注意。
4:絶対に容器にはふたをする。
 ちょっと、説明が後になってしまいましたが。私たちのところで使っているゾウリムシの最初の最初の『種水』の入手先についてです。最初の種となるゾウリムシはTaiwan Zebrafish Core Facility at Academia Sinicaから分けてもらいました。おそらく、皆さんの地域にもゾウリムシを維持管理している機関があると思いますので探してみてください。自然界からゾウリムシを綺麗に単離する方法もあるのですが、少し面倒そうだったので、自分たちはまだ挑戦していません。また、チャレンジする機会があればご報告いたします。

4.まとめ

はい。今回は私たちの研究室でのゾウリムシの増やし方見ていただきました。この動画をみて自分でもゾウリムシを増やしてみたいと思われた方はぜひチャレンジしてみてください。もし、わからないことがあればお気軽にコメントください。さて、次回の予告です。ゾウリムシをたくさん食べて大きくなった仔魚たちには更に大きくて栄養ある餌が必要になってきます。そうした仔魚たちに与える次の餌料生物、アルテミアについて説明してゆきます。お楽しみに。

文献

Tsai, H.-Y., Chang, M., Liu, S.-C., Abe, G. and Ota, K.G. (2013), Embryonic development of goldfish (Carassius auratus): A model for the study of evolutionary change in developmental mechanisms by artificial selection. Dev. Dyn., 242: 1262-1283. https://doi.org/10.1002/dvdy.24022

Li, I.-J., Chang, C.-J., Liu, S.-C., Abe, G. and Ota, K.G. (2015), Postembryonic staging of wild-type goldfish, with brief reference to skeletal systems. Dev. Dyn., 244: 1485-1518. https://doi.org/10.1002/dvdy.24340

Li, I.-J., Lee, S.-H., Abe, G. and Ota, K.G. (2019), Embryonic and postembryonic development of the ornamental twin-tail goldfish. Dev Dyn, 248: 251-283. https://doi.org/10.1002/dvdy.15






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